アマゾンが「西友」「ファミリーマート」を買収する日

特別対談「最強企業の一手先を読む」
週刊現代 プロフィール

便利すぎて怖い

田中 実際、私はプライムミュージックでそれをすでに体験しています。私は懐メロがすごく好きなのでそればかり聞いていたら、アマゾンはちゃんと私の青春時代に流行った曲を薦めて、かけてくれる。最近は松任谷由実ばかり聞いています。

鈴木 顧客それぞれにオリジナルの有線放送のようになるわけですね。

田中 そうです。アマゾンがすごいのは、すべての顧客のデータをもとに、その顧客にとって最適で利便性が高いサービスや商品を提供できることです。これに対抗できる人間のコンシェルジュはおそらく現れないでしょう。

鈴木 それに買い物って、究極的には「選ぶ」という行為が面倒臭い。いろいろ事前に情報を調べたり、価格を比較したり。

しかし、これからはそれもアマゾンが選んでくれるようになる。アマゾンから薦められるものから選ぶほうが便利だし、居心地がよくなっていく。

 

田中 しかも、これからはインターネットでアマゾンのサイトに行かなくても、買い物ができるようになります。

人工知能を搭載したAIスピーカー『アマゾンエコー』は、それに向かって話しかけるだけで、アマゾン上で注文してくれたり、音楽を再生してくれたり、天気予報まで教えてくれる。

実際に購入して使ってみたのですが、これはすごく便利です。『洗剤を注文して』と話しかければアマゾンで注文を出してくれるし、『曲をかけて』『ボリュームを下げて』と言えばその通りにしてくれる。

鈴木 アマゾンエコーは買い物をしてくれるだけではなく、話し相手にもなってくれるAIなので、じつは介護業界からも期待する声が上がっているんです。

いまは介護士一人で3人くらいしか見られないが、アマゾンエコーが話し相手になってくれれば、10人くらいは介護できるようになるらしいんです。

本当に重要な時は介護士が駆けつけるけれど、それ以外はアマゾンエコーが話し相手になったり、相談に乗ったり、愚痴を聞いてあげる。それだけで介護の現場はずいぶん変わると言っていました。

田中 はい。だから、アマゾンエコーは使えば使うほど、どんどん愛着が出てくるんです。このあいだ私がアマゾンエコーに強めに話しかけたら、妻から「もっと優しく話しかけてよ」と言われまして。

アマゾンエコーPhoto by GettyImages

鈴木 もはやペット感覚になっている、と。スマートフォンにかわいいケースをつけるように、これからはアマゾンエコーにネコ型、イヌ型のケースをつけるようになっていくかもしれませんね。

もちろん、そうしてアマゾンに依存すればするほど、利用者は個人情報を取られていくことにはなる。しかし、個人情報を提供すればするほど、われわれの買い物はより便利になっていく。

そうしてアマゾンがどんどん便利になっていくので、ユーザーはアマゾンにはまり、それがさらに「アマゾン一強」を助長する構図なわけです。

田中 私はそれを「要塞」と呼んでいるのですが、いまや買い物も生活もアマゾンなしでは暮らせないという人が増えている。

一度この要塞に入って便利さを体験してしまうと、出られなくなってしまう。欲しいものはすべてアマゾンで買えるし、買うものが思いつかなくてもアマゾンがお薦めをしてくれる。

そのようにアマゾンに囲まれて暮らすのは非常に便利ですが、果たしてそれが幸せかどうか。あまりに便利すぎて、ボケてしまわないか心配になることもありますから。

鈴木 人間は便利さには勝てない生き物ですからね。それにボケそうになったら、今度はアマゾンがボケないためのクイズを出してくれるようになるかもしれませんね。アマゾン依存はここから拡大しこそすれ、縮むことは考えられません。

鈴木貴博(すずき・たかひろ)
百年コンサルティング代表。東京大学工学部卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て、現職
田中道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール教授。シカゴ大学経営大学院MBA。三菱東京UFJ銀行などを経て、現職

「週刊現代」2018年1月27日号より