「憧れの世田谷」に取り残された、高齢者たちの残酷な現実

実は、日本の未来の姿がここにある
池田 利道 プロフィール

世田谷インテリは「老いが早い」

プライドを保ち、妥協せずに生き続けることは、なるほどひとつの人生美学かも知れない。しかし、刺激に欠けた生活は、高齢者の頭と身体を確実に蝕んでいく。その果てに向き合わざるを得ない未来は暗く重い。

上の【図表】に示したとおり、要介護・要支援認定者の割合も、重篤な要介護状態にある要介護3以上の認定者の割合も、世田谷区は23区で一番高い。高齢者の「老い」が進んでいるという事実は、「世田谷病」が着実に広がり始めていることを物語っている。

その一方で、世田谷区は入所型高齢者福祉施設の定員充足率(高齢者数に対する施設定員数の割合)が21位、特別養護老人ホームの定員充足率は23区で最低のレベルにある。唯一の救いは、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が多いこと。居住面積あたりの集積密度は有料老人ホームが23区最高、サ高住も3位である。

資産にゆとりがあるのなら、これらは有力な選択肢となる。ただし、そのキャパシティはざっと見積もって5000人分くらいだ。世田谷区には20万人近い高齢者がいるから、世田谷に住むことができた人たちのなかでも、さらに選び抜かれた人でないと、おいそれとは恩恵に浴せない計算になる。

高所得・高学歴・高職種をきわめた「世田谷インテリ」たちは、インテリなるがゆえに、本人が望まない、予想もしなかった家族への負担を強いる人生の終末期を迎えているのである。

 

プライドの先に潜む末路

いつ来るかもしれない孤独死の恐怖を抱える高齢者のひとり暮らし。その対極となる姿と言えるのは「3世代同居」だろう。政府も「少子化社会対策大綱」に盛り込んで推奨している。同居に問題がないわけではないが、やはり羨ましい老後の形である。23区で3世代同居の高齢者が多いのは、江戸川区、葛飾区、足立区などの東部地区。ひとり暮らしのお年寄りは当然少ない。

一方、世田谷区は、3世代同居の高齢者の割合もひとり暮らしの高齢者の割合も23区中最低。世田谷を除く22区では、3世代同居が多いとひとり暮らしの高齢者が少なくなり、ひとり暮らしの高齢者が多いと3世代同居が少なくなる傾向にあるのに、世田谷区だけは特異なデータが出ている。

3世帯同居もひとり暮らしも少ない世田谷区で一番多いのは、夫婦2人で暮らす高齢者の割合である。子供が巣立ったあとも、ずっと夫婦2人で暮らし続ける姿からは、孤高なプライドが垣間見える。そうした世帯で、配偶者が亡くなったときにいろいろな問題が起きることは容易に想像がつくだろう。

ところが世田谷区では、配偶者と死別してひとり暮らしをしている高齢者の数は、他の区とさほど変わらない。それなのに、高齢者全体に占めるひとり暮らしの割合が23区で最も低いというのはどういうことなのだろうか。

答えは単純で、配偶者と死別した高齢者自体が少ないのである。その割合は港区に次いで下から2番目。男性では一番低い。もちろん、奇跡的に夫婦とも長生きしているということではない。配偶者を失った高齢者たちは「憧れの世田谷ライフ」を手放し、子どもが住むまち(あるいはその近く)へと移っていくのである。