留年は恥ずかしいことではない

学力のみならず、日常の生活面で「子供がその学年のレベルに達していない」と親が判断したら、留年または学年を下げることもある。オランダのインターネット掲示板に書き込まれた「勉強ではなく、精神的に未成熟な8年生の娘を留年させるべき?」という質問に対し、留年のみならず「7年生に戻るべき」というアドバイスも並ぶ。

オランダの親は、「子供が自分のレベルに合っていない場所にいる」ことを何よりも不幸だと考える人が多い。留年は恥ずべきことではなく、飛び級と同様に「子どもの発達に応じて必要なもの」だと捉えられている。

筆者の娘のクラスに留年者は見当たらないが、外国で育った時間が長い帰国子女が、一年学年を下げて在籍している。飛び級でやってきた女児もいるので、本来なら3学年にまたがるはずの子供たちが同時に学んでいることになる。そういった多様性もオランダの小学校の魅力のひとつだ。

ただし、そうはいっても留年にはコストがかかる。教育費はインターナショナルスクールや一部の中等教育におけるバイリンガル学校(カリキュラムの半分が英語)以外は国の負担で、基本的に無償だからだ。オランダ経済政策分析局(CPB)の研究によると、初等教育・中等教育を合わせた留年者にかかるコストは年間5億ユーロ(2018年1月現在、約677億円)にも上るという。

2012年の中等教育修了テスト受験者(卒業予定者)が、どのくらい留年経験をしているか調べたところ、7万3千人という数字がはじき出された。生徒ひとりあたりに政府が支払うコストが年6千500ユーロなので計約5億ユーロになる。それは初等教育と中等教育に関する政府支出の3%にあたるのだ。

(ただし、この数字には飛び級者の存在が考慮されていないので、実際のコストは減額されるかもしれない。)

日本では、文部科学省の調査から、「学業不振」が原因で小学校または中学校を登校拒否する生徒がいることが分かっている。習熟レベルではなく年齢で一律に学年分けする日本では、今後も年齢の平均学力にそぐわない子供は苦しみ続けることになる可能性が高いのではないだろうか。

「同じ年齢なら同じようにできなければならない」と囲いを作ることで、「囲いからはみ出てしまった子」が学ぶことに対して意欲を失ってしまいかねない。日本に飛び級や留年を簡単に導入するのは難しいのかもしれないが、それならばそういった不幸なマッチングをなくすためにも、何らかのサポート体制を整えることはできないのだろうか。

同じ学年の子が必ずしも同じ学習能力をもつとは限らない。Photo by iStock

決して小さな負担ではないだろうが、オランダにはぜひ子供たちの「適切な学年で学ぶ権利」である留年、および飛び級をこの先も保証していってほしいし、日本でのサポート体制も慎重かつ迅速に望まれるところだ。学校という場所が、子どもたちが楽しく安心して学ぶことのできる場所であるということが、何よりも大切なのではないだろうか。

次回は、そういったオランダの教育を支え続ける教師たちにスポットライトを当てていきたいと思う。国の未来を支える子供たちを導く教師たちが、どのようなシステムの中で授業を行っているのか、国からどのようなサポートを受けているのかなどを紹介したい。

前回のオランダ教育無償化についての記事はこちら→「『世界一の教育』オランダの小学校は日本とはレベルが違った ―『義務教育費が無料』の国で―」