なぜ日本人PKO隊員は殺されたのか…警察官「23年目の告白」

真実がいま明かされる
旗手 啓介

ついに再開した二人

川野辺には一人の男をどうしても捜し出さなければならない切実な理由があった。

23年もの間、誰も検証しようとしなかったカンボジアPKOの真相――かつての部下・高田が誰によって殺されたのか、それだけでもいつか明らかにしたいと思い続けて生きてきたのである。「事件はあなたの犯行でないのか」その問いを元警察官として突きつけるために。

その男とは、川野辺らが襲撃された現場アンピルのポル・ポト派司令官だったニック・ボン准将。反政府の急先鋒だったポル・ポト派のゲリラ活動がカンボジア各地で活発になっていく中で、川野邉は、隊員たちの身の安全と地域の治安をはかるために、独自にニック・ボンと折衝を重ねていたのだが、悲劇は起きた。

ニック・ボン氏と写る川野辺氏

そしてようやく消息をつかんで、ニック・ボンと23年ぶりの〝再会〟することになったとき、憎しみを抑えられなくなったのか、川野邉の唇は震えていた。

だが、その後、二人が邂逅を果たし再び別れるとき、川野邉もニック・ボンも、心境に意外な変化が生じる――。

 

23年が経ってもなお

戦後71年の夏を迎えた2016年8月。NHKでは毎年8月に戦争や平和を考える番組を集中編成することになっている。

私たち制作チームは取材結果をもとに、8月13日にNHKスペシャル「ある文民警察官の死~カンボジアPKO 23年目の告白~」(49分)を放送。同年11月にBS1スペシャル「PKO 23年目の告白 前編・そして75人は海を渡った/後編・そこは〝戦場〟だった」(100分)を放送した。

そのころ、自衛隊のPKO部隊が派遣されていた南スーダンでは、同隊の宿営地近くで激しい戦闘が起き、事態は緊迫の度を深めていた時期でもあった。番組は視聴者の方々からの反響も大きく、いくつかの賞をいただいた。

ただ、制作者としては、心残りがあった。テレビドキュメンタリーという分野では往々にして起こることだが、放送時間の制約上、取材で得た膨大な証言や事実を削除せざるをえなかったのだ。映像と文字との違いはあるが、49分のNHKスペシャル(ナレーション部分とインタビュー)を単純に字数にすると、実は1万字にも満たない。400字詰めの原稿用紙にして25枚分ほどである。

今回、その何十倍もの分量を遺す貴重な機会をいただき、ノンフィクション『告白』としてまとめることができた。突然召集され、カンボジアに赴いた75名の隊員たち、そして番組では紹介できなかった事件の関係者、重傷を負ったオランダ海兵隊員や、事件現場に丸腰で救援に駆け付けたスウェーデン文民警察官らのその後の人生をできるだけ詳細に綴っておきたかった。

今後、日本が国際社会の中でどのような形で平和構築にかかわっていけばいいのか、その解を得るには、今の世界情勢はあまりにも複雑である。一人の死から23年もの間、沈黙せざるをえなかった警察官たちの「告白」。取材を始めて2年がすぎた今なお、私たちはその「告白」の重さに立ちすくんだままのような気がしている。

旗手啓介(はたて・けいすけ)1979年神奈川県生まれ。2002年NHK入局。ディレクターとして福岡局、報道局社会番組部、大型企画開発センターを経て、2015年から大阪局報道部所属
1月17日に発売された『告白』