作家・山内マリコが人生に悩んでいた時に出会った「一生モノの本」

悩みが深いときほど良い読書ができる
山内 マリコ プロフィール

作者は、現代アーティストであり映画監督でもある女性。彼女の作品は観客や読者に対して、「あなたもなにかできるんだよ」という、扇動的なメッセージが通底している気がします。小説を書く行為は、自己満足的なものに陥ってしまいやすいけれど、この作者は自分だけでなく、他者のためにも書いている感じが伝わってきて、そこがすごく好きです。

村上春樹のデビュー作、『風の歌を聴け』は、大学生のころ、お守りみたいに持ち歩いてました。

小説家にとって処女作は、基本的には青春小説で、できるだけ自己を投影し、若さをぶち込むのが条件だと思うんです。この本は冒頭のたった7ページで、金字塔を打ち立てている。本当にかっこよくて、ノックアウトされました。小説家志望の若者にとってこの数ページが、どれだけ高いハードルになっていることか。

小説を欲するようになるのと同時に、小説家になりたいと思ってしまったので、読書自体が「生業」のような感覚。

何を読んでも、吸収して血肉にして、自分の作品にフィードバックさせようという下心が出てしまうので、困っていますね(笑)。

悩みというと、小説家になって、本を読む時間が減ったこと。資料としてではなく、自分の作品からも離れて、純粋に読みたいと思った本に向き合える時間は本当に貴重です。(取材・文/佐藤太志)

「最近の私の大きなテーマが結婚。この小説は第一部では夫の視点から結婚生活の陽の部分、第二部では妻の視点から陰の部分が語られ、シェイクスピアなど古典からの引用もすごい。底知れない魅力がある結婚小説です」

山内マリコさんのベスト10冊

第1位『カウガール・ブルース』
トム・ロビンズ著 上岡伸雄訳 集英社 入手は古書のみ
「読むと映像化の苦労も納得。『この世に足りないのは詩よ』なんてセリフも素敵で上岡先生の訳も素晴らしいです」

第2位『リヴァイアサン
ポール・オースター著 柴田元幸訳 新潮文庫 710円
「友人の作家がなぜテロリストになったのか、その謎を巡る物語。献辞に出てくるソフィ・カルのアートも好きです」

第3位『いちばんここに似合う人
ミランダ・ジュライ著 岸本佐知子訳 新潮社 1900円
「作者はパフォーマンス・アーティストや映画監督としても活躍。風通しの良い文章で読むと創作意欲を刺激される」

第4位『ローカル・ガールズ
アリス・ホフマン著 北條文緒訳 みすず書房 2500円
「アメリカの郊外に生きる女の子2人を描く連作短編。デビュー作のヒントにもなった」

第5位『風の歌を聴け
村上春樹著 講談社文庫 390円
「大学の書店に常時特集コーナーがあって必然の出会いでした。村上作品のベストです」

 

第6位『フラニーとゾーイー
J.D.サリンジャー著 野崎孝訳 新潮文庫 入手は古書のみ
「京都の雑貨店で働いていた鬱々としていた時、フラニーの気持ちに共感。思い出深い本」

第7位『父の詫び状
向田邦子著 文春文庫 570円
「父からの手紙を基点に、カメラワークにキレを感じる表題作ほか文章のセンスが別格」

第8位『夜の樹
トルーマン・カポーティ著 川本三郎訳 新潮文庫 630円
「『あ、これ天才が書いてる』と感じるほど格好良い『ミリアム』など短編の名作揃い」

第9位『停電の夜に
ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳 新潮文庫 590円
「こちらも短編集の名品。長編一作以上のアイデアが詰まった完成度の高さに参ります」

第10位『増補 トリュフォー、ある映画的人生
山田宏一著 平凡社 入手は古書のみ
「不良少年で批評家出身の映画監督が運命を切り開く姿を描く評伝。卒論のテーマです」

『週刊現代』2018年1月27日号より

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