あるフィリピン人女性が「育児困難」に陥った3つの理由

育てられない母親たち【13】
石井 光太 プロフィール

保護の後、児童相談所は、ベネッサと何度も面会を行って家庭環境を整えるように注意した。だが、ベネッサは「日本語がわからない」「フィリピンではこれが普通」「友達にあずければ大丈夫」とくり返すだけで悪びれもしない。

児童相談所の担当者は通訳を挟んでこう言った。

「このままの生活がつづけば、百合愛ちゃんは不登校になるし、高校にも上がれませんよ」

ベネッサは答えた。

「大丈夫。私も、学校行ってない。高校も行ってない。だから大丈夫」

 

おそらく貧しい家庭に生まれ育ち、教育を受けないのが普通だったのだろう。だからこそ、自分がしてきたことがまちがっているとは考えられないのだ。回りの友人も同じような境遇の人ばかりだということも影響しているにちがいない。

百合愛をこのままにはできない。だが、百合愛自身は施設で暮らすことを嫌がった。何度か話し合ったことで、しばらくして百合愛がこう言いはじめた。

「パパの家なら暮らしてもいい」

祐司に生活能力がなかったが、祖母が行政の支援を得られるなら引き取ってもいいと答えた。そこで百合愛は祖母の家に引き取られることになった。

三鷹と川崎の事件加害者家族との共通点

ベネッサと百合愛の話から感じたのは、私がこれまで事件取材で知った家庭と非常に酷似しているということだった。

少なくとも、最初にあげた三鷹と川崎の両方の事件と共通するところだけ挙げても次のようになる。

・母親は若い頃から水商売をしていて昼夜が逆転した生活をしている。
・日本語の能力に乏しく、子供との会話が成り立たず、暴力をふるうことが多い。
・仕事、恋人、遊びを優先して子供を家に放置する。もしくは知人に預ける。

これは少なからず日本人親の養育困難事例にも当てはまることだが、明確にちがうのが言葉の問題である。

もしも、若くして日本に来てパブで歌って飲んでいるだけの生活をつづけていては、大した語学力はつかない。一緒に働いている仲間が同じ国の出身であれば、なおさらだろう。

そういう女性が子供を持てば、子供の発達に様々な障害が生じる可能性は否めない。コミュニケーションがとれないので、親子の間で不要な衝突が生まれる。子供は何を言っても理解してもらえないという疎外感を抱く。信頼とか愛情といった感情が育てにくくなる。

同級生からハーフであることや親が水商売であることを理由にいじめを受けた時、反論するためのアイデンティティーがない。親が学校と断絶してしまっているため、子供を適切な教育環境に置いてあげることができなくなる……。