なんとプーチンに密着取材!オリバー・ストーン監督が見た驚きの事実

西側の報道を鏡のむこう側から見る
土方 奈美 プロフィール

1990年代初頭、ロシアは冷戦が終結したと信じ、アメリカを中心とする西側世界を信頼し、歩み寄った。

モスクワのアメリカ大使館に仕掛けてあった盗聴システムをそっくりアメリカ側に引き渡したのはその象徴で、2001年の同時多発テロ後はアメリカのアフガニスタン侵攻を情報・兵站面で支援した。

しかし、それが報われることはなかったとプーチンは苦々しげに繰り返す。

たとえばクリントン、ブッシュ政権時代の二度にわたる北大西洋条約機構(NATO)拡大と、それに続くアメリカのABM条約からの一方的脱退だ。

ドイツ再統一が決まった当時、アメリカや旧西ドイツの高官がそろって「NATOの東の境界が旧東ドイツの国境より東に行くことはない」と約束したにもかかわらず、東欧諸国は次々とNATOに加盟し、そこにABM(弾道ミサイル迎撃)システムが配備された。

「標的はロシアではなく核開発を続けるイランだとアメリカは説明するが、それならなぜイランが軍事用核開発計画を放棄したのに配備を続けるのか」とプーチンは語気を強める。

ロシアと欧米の対立を決定的にした、2014年のウクライナ政変とそれに続くロシアによるクリミア併合についても同じである。

政変に至る経緯を説明しながら、親ロシア派のヤヌコビッチ政権の崩壊は、アメリカが支援したクーデターだったと言い切る。そしてロシア系住民が過半数を占めるクリミア地方が国民投票でロシア編入を決めたことに対する国際社会の反応については「ダブルスタンダードだ」と訴える。

旧ユーゴスラビアのコソボが独立するとき、国際社会はセルビア政府の同意は不要だと判断した。それなのになぜクリミアが独立するのに、ウクライナ政府の同意を必要とするのか、と。

いずれも西側から見れば、プーチンのプロパガンダにすぎないかもしれないが、立場が変われば同じ事象がこうも違って見えてくるというのは衝撃的であり、国際問題に対する認識が揺さぶられる。

 

プーチンの苛立ちと諦観

本書のもう一つの魅力は、ウラジーミル・プーチンという政治家の思考回路や人となりを知る貴重な手がかりとなっていることだ。

もちろん伝わってくるのはプーチンが国際社会に見せたい自画像であり、真実の姿ではないかもしれない。

しかし20時間のインタビューの記録からは、ふだんニュース映像で目にすることのない姿が浮かび上がってくる。

まず雄弁である。そして官僚や諜報機関からの報告書の要約に頼らず、資料はすべて原典を読むと言うだけあって細かな事実や数字に強い。歴史や文学に通じ、意外と流暢な英語を話す。

ストーンに「ロシアの主張をもっと積極的に伝えていくべきだ」と促され、「そんなことは土台無理なんだ。ロシアが主張する立場は世界のメディアから無視される。だから邪悪なロシアといった論調ができあがる」と答える姿には、国際社会に対する苛立ちと諦観がにじむ。

ともに映画『博士の異常な愛情』を鑑賞した後、ストーンがプレゼントと言いつつうっかり空のDVDケースを手渡すと「典型的なアメリカの手土産だな」と切り返すなど、頭の回転が速くウィットに富んだ一面もうかがえる。

2年にわたって関係を構築し、プーチンのさまざまな面を引き出したストーンの手腕はやはり評価に値する。

ストーンはプーチンから冗談交じりに「反アメリカ的」と言われたのに対し、「私は反アメリカでも親ロシアでもない。親・平和だ」と返す。

ベトナム帰還兵として、生きているあいだに平和な世界を見ることが望みだというストーンは、一国主義を強める母国への不安を募らせている。このドキュメンタリーを撮ったのも、アメリカの最大の仮想敵であるロシアとのあいだを橋渡ししたいという思いからだ。

無意識のうちにアメリカ側の世界観を内部化しがちな日本の読者にも、近くて遠い隣国ロシアに対する理解を深めるため、また世界情勢に対する新たな視座を得るために、ぜひ本書を手に取っていただきたい。

オリバー・ストーン オン プーチン