聴覚障がいアスリートがパラリンピックに参加しない「複雑な事情」

「デフリンピック」をご存じですか
河野 正一郎 プロフィール

助けてくれる人もいる、が…

デフバレーボール協会も資金捻出の努力はしている。2017年のデフリンピックに向けてスポンサー企業を探し、選手が所属する田辺三菱製薬や日立などから約500万円の支援を受けた。支援企業の中でも大きく協力してくれたのが、スポーツウェア企業のオンヨネ(本社・新潟県長岡市)だった。

これまでウェアは既製品を買っていたが、オンヨネが選手ごとにサイズを合わせ、バレーボールの動きに合わせたウェアを開発してくれた。金銭を伴うスポンサー契約ではないが、ウェアの提供は数百万円の価値になった。

オンヨネの社長・恩田浩典さんは「ウチは大企業のようにイメージアップのためのスポンサードはしていないし、デフバレーで広告効果を狙っているつもりもありません」と言ったうえで、こう話した。「困っている人を少しでも手助けできたらと思っただけです」

 

認知度が低いマイナースポーツにも、ドラマ『陸王』の役所広司が演じる「こはぜ屋社長」のような存在はいるのだ。

だが、それでもデフバレーボール協会を黒字運営にするのは難しい。

車いすや義肢を使うパラ競技と比べ、デフ競技は一見しただけでは健常者との違いが見えにくい。あえて批判を恐れずにいえば、デフリンピック単独でショービジネスとして成功する要素は少ない。とはいえ、デフリンピックの知名度が低いままでは、企業からの協賛金も集まらない。

一方のパラリンピックは、大会を重ねるごとに注目度が増している。いまこそ、デフ・スポーツの知名度を上げ、世界一のデフ・アスリートに誇りと自信を持ってプレーしてもらうために、パラリンピックでデフ競技を開催することを考えてみたらどうだろうか。

TOKYO発の議論で「レガシー」を

テクノロジーの進化によって、手話通訳はテレビ電話を通じる方法や、瞬時にテキスト化してスクリーン表示することも実現化しており、手話通訳者を雇うよりコストも安く抑えられるようになっている。

テレビ電話を通じて手話通訳サービスをしている会社に聞くと、「ほぼ時差ゼロで、音声から手話へ、手話から音声へ通訳できます」と言う。会議の場でデフが健聴者に不信感を抱くような事態を、テクノロジーが解決してくれるようになってきた。環境は整いつつある。

今回、私はデフ競技団体のリーダーらに、パラに参加することについての賛否などを聞こうとしたが、リーダーらは「デリケートな問題なので名前を出して取材を受けるのは難しい」という反応が多かった。ただ、取材に協力してくれた、一人の関係者はこう話してくれた。

「デフの知名度を上げたいという思いは、みんな同じだろうと思います。ある人は『デフ運営主義は独り善がりと見られないか。国民から共感されるだろうか』と心配しているし、『パラに出場することでメディアに取り上げられる機会も増え、認知度アップなどの相乗効果を生み出せるのではないか』という人もいます」

この関係者によれば、過去の経緯も踏まえて、デフ選手をパラに参加できるようにするためにどうしたらいいのか、悩んでいる競技団体幹部が多いようだ。

そうした現状からも、競技団体幹部の多くが、デフ・スポーツの認知度を上げるために、なにか新たな方策を検討しなければいけないと考えていることがわかる。

知的障がい者スポーツはパラリンピックに出場枠があるのに加え、独自にスペシャルオリンピックスを開催している。サッカーの場合、男子は年齢制限(23歳以下)を付けて、FIFA主催のワールドカップを開催している。ろう者スポーツ委も、デフリンピックを開催し続けたままパラリンピックに参加する方法も考えられるだろう。

パラリンピック東京大会の開催まで1000日を切った。デフ・スポーツの将来について、まずTOKYOから考え始めたらどうか。TOKYO発の議論に多くの人が参加し、世界の英知を集めて一つの方向性を見い出す結果を得られれば、それも一つの「レガシー」になると思っている。