「デジタル・レーニン主義」で中国経済が世界最先端におどり出た

一方、日本は「石器時代」のまま…
津上 俊哉 プロフィール

先進国を追い抜くチャンスー中国のグッドニュース

最近中国では「弯道超車」と言う言葉がはやりだそうだ。

元々は自動車レースで、先行車がカーブで減速した隙をついて一気に追い抜くテクニックを指す言葉だが、転じて最近退行が目立つ西側先進国を追い抜くチャンスが到来しているという意味で使うという。「西側先進国が気づいたら既に抜かれていた」というように、摩擦を起こさない追い抜き方がモットーらしい。

本稿で紹介したビッグデータなどは、まさに「湾道超車」の初の実例になるかもしれない。

「社会信用体系」がほんとうに能書きどおり、政府の違法行為や非効率にもペナルティを与えて矯正力を働かせることができるようになれば、中国13億人にとっての福音になるだけでなく、海外から見ても「中国モデル」の魅力がさらに増すだろう。その意味で、共産党が生まれ変わる、良い「デジタル・レーニン主義」だって想像できる(さすがに、その可能性が高いという気はしないが)。

ビッグデータ以外にも、AI、電気自動車など、中国が地頭の良さに加えて国策の後押し、資金力を惜しみなく投入して西側先進国を抜き去りそうな技術分野がいろいろある。

筆者は「少子高齢化社会・経済に如何に対応していくか?」は、今後日本が中国に範を示してビジネスにもできる残された分野の一つだと考えてきたが、AIとロボティクスを活用した労働人口減少への対応といった課題では、むしろ中国が日本の先を行きつつある気がする(無人運転技術などは好例)。

 

oldがnewを食いつぶす構図も―中国のバッドニュース

これまで筆者は、足元の中国好景気は投資・負債頼み、公共投資牽引型で「質に難あり」だと述べてきた。ただ、現時点では、中国経済は人も羨むような民営企業中心で技術ドリブンなニューエコノミーの発展と、地方政府や国有企業などが中心でますます劣化が進行しているオールドエコノミーという、全く異質な2つの経済が同居している状態だ、という見解だ。

ゆえに今後の中国経済政策の要諦は、ニューエコノミーをさらに可能なかぎり成長させる一方で、劣化が進行しているオールドエコノミーを可能なかぎりリストラして、そこに貼り付いている資金や労働力を成長分野に振り向けることなのだが、後者のリストラは習近平政権下でも進展していない。

今後、ニューエコノミーがオールドエコノミーに足を引っ張られることは避けがたい。それが単純な「お荷物」程度で済めば良いが、共産党利権が体制温存のために、躍進するニューエコノミーを食い物にしようとすると、事態は大きく暗転する。

すでに、アリババやテンセントに国有企業救済のためにカネを出させる、元気の良い民営企業に政府が出資して「あげる」(つまり株主になる)といった兆しが出始めている。

過剰な個人情報保護―日本のバッドニュース

ここで紹介した中国のニューエコノミー成長の姿が今後の世界のトレンドになっていくとすると、日本はほぼ間違いなくその時流に乗り遅れるだろう。理由は2つある。

第1は、シェアリングエコノミーの導入で既に見られたように、規制がんじがらめで新しい業態が成長できる空間に乏しいこと。

そして第2は、情報インフラの後れ、過剰な個人情報保護などのせいでデータベースの紐付けが極めて難しいことだ。マイナンバーすらほとんど普及(活用)されず、まして銀行口座との紐付けは遠い夢だ。

筆者は、数年内に政府に対する規制緩和要望の上位には「過剰な個人情報保護」が来るだろうと思う。そして来日した中国人は一方で日本の良さを発見しながら、他方で「日本って石器時代みたい」いう感想を漏らすようになるだろう。

凄いところは中国に学べー日本のグッドニュース

日本にとってのグッドニュースを見つけるのは簡単ではないが、「我々の心がけ次第では」という条件を付ければ一つ挙げることができる。

過去の歴史を振り返って、調子が良かった頃の日本は何を得意技にしていたかを挙げてみよう。筆者の答は「物まね」と「外圧(による危機感)」だ。若い人は違和感があるかも知れないが、筆者(60歳)と同世代または年長の人は同意してくれるだろう。昭和60年まではそんな時代だったのだ。

だったら、「昔取った杵柄」に戻れば良い。中国経済は駄目なところは駄目だが、凄いところは凄い。その現実に正面から向き合い、凄いところは「中国に学ぶ」発想の転換、心理の折り合いをつける、そうしなければ日本は本当に世界の進歩から取り残されて、「石器時代の国だ」と嗤われるという危機感を持つことだ。

何時までも「過去の栄光」にしがみついていないで、新年が日本人の眠っていたDNAが目を醒ます年になることを期待したい。