「デジタル・レーニン主義」で中国経済が世界最先端におどり出た

一方、日本は「石器時代」のまま…
津上 俊哉 プロフィール

「デジタル・レーニン主義」?

先日、中国で撮られたある動画が日本で話題を呼んだ。交通信号を守らない通行人の姿が街頭カメラでキャプチャーされ、顔識別システムで姓名・身分証番号などが特定され画面上に表示される映像だった。

こういうものを見せられると、ジョージ・オーウェルがディストピア小説「1984年」で描いた監視社会のイメージが脳裏に浮かんでくる。情報の流通を封鎖し、自由な思想・言論を弾圧する中国政府のいまの姿と重ね合わせると、技術の進歩が「情報の偏在」を解消する未来社会は、全てが監視・統制される暗黒社会のイメージに近付くのも事実だ。

昨年そんなことを考えているときにたまたま「デジタル・レーニン主義」という言葉を聞いて、ひどく「刺さった(記憶に強く残った)」記憶がある。

そんな印象を抱きながら、この「社会信用体系」を調べ始めたのだが、結論から言うと、これを国民の監視・統制のための仕組みだと決めてかかるのは狭すぎる。中国政府はこの社会システム推進のために「信用中国(CreditChina)」というウェブサイトを設けている。中国語ができる人は見に行くことをお勧めするが、極めて興味深い内容だ。

 

「社会信用体系」建設運動とは

社会信用体系の建設は、2013年の三中全会改革決定で取り上げられ、翌2014年に国務院が策定した「社会信用体系建設企画要綱(2014-2020年)」に基づいて進められているが、この要綱の中身を平たく言えば、以下の3点に要約できる。

1) いまの中国では信義(「誠信」)が軽んじられており、これが経済社会の様々なコスト・リスクを高めている。中国の経済・社会がさらにアップグレードするためには、社会全体が信用を大切にする意識と決まりや約束の遵守の度合いを向上させることが必須だ
2) よって政府、企業、個人・団体の全ての活動について、法令・規格・契約などに準拠して、信義を守る行いにはインセンティブを与え、信義にもとる行いにはペナルティを科す仕組みを構築する
3) このために社会の成員全てをカバーする信用記録と信用情報インフラを基礎として、(ビッグデータなどの)信用サービスの助けを借りながら、情報の公開と共有を進める

どういう情報が公開されるようになったのか。「信用中国(Credit China)」のサイトに行くと、例えば行政許認可と行政処罰の開示情報(両者合わせて「双公示」という)を対象者の氏名・名称や番号で検索することができる(違法駐車歴も検索できる)。ちなみに中国では、個人も企業も18桁の識別番号が与えられている。

また、借金不払いで強制執行を受けてなお返済しないような「踏み倒し者(「老賴(ラオライ)」という)」のブラックリストもデータベースで公開されるようになった。対象者は2017年12月現在で920万人であり、筆者が会社経営時代に遭遇した踏み倒し者を検索したところ、ちゃんとヒットした。

踏み倒し者に対しては、氏名公開という社会的制裁だけでなく、債権者が裁判所に申請することにより、飛行機や高速鉄道に乗れなくする措置を執ることもできる(中国は身分証で本人確認しないと切符購入も搭乗もできない)。この措置により飛行機に搭乗できない者は900万人、高速鉄道に乗車できない者が300万人いる由だ。

以上のように、「社会信用体系の建設」というのは「いまの中国は決まりや約束を守らないのが最大の欠陥だ」という認識から出発し、これを矯正することを目指した一大運動で、国民の監視はその一部でしかないらしい。

過去にした悪事が全部バレてしまう情報共有の仕組みが出来たことで、「中国は10年後には『約束が守られる国』に変わるだろう」という笑い話が生まれている。

こういう運動を政府主導で進めるところがパターナリスティック(家父長主義的)な中国共産党らしいが、能書きどおり自らも信用を大切にする政府になれるだろうか。