銀座のキャバレー「白いばら」が、心から惜しまれながら閉店する理由

経営は順調だったのに
折原 みと プロフィール

白いバラがこれだけ愛される理由

 「ホステスとして、一番大切にしてきたことは何ですか?」

そんな私の素朴な質問に、五月さんは即答できっぱりとこう答えてくれた。
 
「心! 大切なのは心です」
 
真剣に相手を思いやる心があれば、必ずお客さんも応えてくれる。心のあるホステスには、いいお客さんがつく。そうした互いへの愛情や信頼が、この店独特の、何とも居心地の良い空気を作り出しているのだろう。
 
女性トイレの個室には、ホステスへのこんな注意書きが貼ってある。

「ここでスマホを使用しないでください!」

「少しでも早く! 今、ご来店いただいているお客様への喜び作りのために」

お客様に幸せな時間を過ごしてほしいと思う「心」。それこそが、「白いばら」が長年愛されてきた一番の理由なのかもしれない。
 
閉店することが発表された後、新人ホステスの中には、次の仕事を見つけて辞めていった人たちもいる。が、ほとんどのホステスたちは、最後のひとりまでお客様を見送るために店に残って働き続けている。

五月さんや前述のみくさんには、自分の店を出さないかという話もあったが、そのつもりはないという。今はまだ、今後の身の振り方を具体的には考えられない。とにかく、「白いばら」の最後をしっかりと見届けたい。

将来的には、五月さんは介護、みくさんは葬儀関係の仕事に興味があるそうだ。華やかな世界で生きていたいわけではないのだ。人を癒したい。幸せにしたいという彼女たちの「心」は筋金入りだ。

店内は一切撮影禁止。その代わり、人気ホステスの五月さん(写真前右から2人目)とミクさん(同一番右)とが記念撮影に応じてくれた。

「白いばら」を買ってくれませんか?

二度の来店時、印象に残ったのは、お客さんたちの笑顔だった。馴染みのホステスと談笑し、ショーに目を輝かせ拍手を送る楽しげな笑顔。だけどその裏には、誰もが悲しみを押し隠しているように見えた。ホステスもお客さんも、いつものように明るく笑いながら、心で泣いているように見えたのだ。

閉店の迫る店内は、悲しみと、切なさと、感謝と愛おしさの入り混じった、最後の輝きに包まれている。

年が明けて、「白いばら」最後の日まであと数日。

私のような俄かファンでさえ、こんなに淋しい気持ちなのだ。お店の人たちや昔からのお客さんたちは、どれほどやりきれない気持ちでその日を迎えようとしているのだろう。

祖父の代から、三代に渡って通っていた常連さん。年に一度、組合や町内会の旅行で田舎からやってくるのを楽しみにしていた人たち。年金支給日の翌日に、お金の入った封筒を握りしめて来店するおじいちゃん。「白いばら」を愛し、この店を第二の我が家のように思っていた人たちは、これからどこに行けばいいのだろう?

老朽化した建物の建て替えは避けられないとしても、いずれこの場所に建つ新しいビルで、「白いばら」を再開することはできないのだろうか……?

 

それは否だ。銀座の一等地に新しいビルを建てるとなれば、今よりも高層にして、オフィスなどのテナントを入れることになる。一階をキャバレーにすることは難しい上に、家賃が高くなってしまい、現在のような大衆的な料金で店を経営することは不可能なのだそうだ。

「『白いばら』を買ってくれませんか?」

閉店することが決まってから、ホステスさんたちは冗談半分本気半分で、お客さんにそう声をかけているという。

今の場所でなくてもいい。もっと規模は小さくてもいい。残ったホステス、黒服、バンドやダンサーごと引き受けて、店を再建してくれる大金持ちがどこかにいないものだろうか?

昭和の遺産ともいうべきこの素晴らしいキャバレーの灯が、このまま消え去ってしまうのは、あまりにも惜しい。

創業87年の銀座のオアシス「白いばら」。

箱はなくなっても、せめてその「心」が、これからもどこかで生き続けてくれることを切に願う。