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名門企業・大企業の早期退職者が陥りやすい「意外なワナ」

「大転職時代」を生きるすべての人へ

人間が行う仕事の約半分が人工知能搭載の機械に奪われる――。そんな衝撃的な予測をオックスフォード大学の研究者が発表してから早4年。新たな次元での合理化が進むなか、経年の歪みに由来する不祥事も相俟って、電機や銀行など長く日本経済を支えてきた名門企業・大企業が人材整理に動き出している。

企業の人事担当として、組織人事コンサルタントとして、さまざまな退職の場面に接してきた秋山輝之氏は、前回記事「『退職に無防備な人』がハマる、早期退職優遇制度という落とし穴」で、日本のビジネスパーソンが「退職」と真剣に向き合ってこなかったため、早期退職制度を安易に考えることで人生が暗転しかねないことを指摘した。今回はその問題をさらに掘り下げる。

 

早期退職した人はどう再就職するのか

人事コンサルタントという職業柄か、近ごろ、名門企業の早期退職応募者が大手自動車会社に大量に再就職した、競合企業に転職して年収が100万円以上アップした、といった景気の良い話をよく聞きます。この手の話は誇張されやすいので鵜呑みにするのは危険なのですが、それにしても転職市場が活発化しているのは間違いありません。背景にあるのは、未曽有の求人難です。

2017年11月度の有効求人倍率は、43年ぶりの高水準となる1.56倍を記録しました。新規求人倍率(今月新たに生まれた求人数÷今月新たに発生した求職者数)も2.32倍と高く、求人倍率は当面上昇し続けると見られています。

帝国データバンクによる「人手不足に対する企業の動向調査(2017年10月)」では、正社員が不足していると回答した企業が49.1%にのぼり、調査開始(2006年)以来の最高値を記録しました。同調査では大企業ほど人手不足が深刻であるとされており、言い換えれば、大企業に再就職したい早期退職者にとって、かつてない良い状況を迎えているということになります。

早期退職者の転職活動をサポートする「再就職支援会社」の支援実績も増えています。【図表1】は、大手再就職支援会社のホームページから実績を抜粋したものです。リーマンショック後の2010年には、退職後半年で5割、1年後で8割だった再就職先の決定率が、現在は半年で6割、1年後で9割超とそれぞれ1割上昇しています。

大手再就職支援会社の支援実績【図表1】大手再就職支援会社の支援実績

しかし、ここで注意せねばならないのは、再就職の改善幅は1割にすぎないということです。この未曽有の売り手市場においてすら、早期退職者の4割は半年以上の無職期間を覚悟する必要があり、1割弱の方は1年を超える期間が必要なのです。

再就職者の年収は上がっているが…

さて、この未曾有の人手不足のなかで早期退職者が再就職する場合、年収はどうなるでしょうか。

転職先の報酬が前職とどのくらい変わるのか(=賃金変動率)は、転職にかかる期間の長短以上に個人差があります。個人差が大きいためか、再就職支援会社も公表は避けているようで、図表1に登場する大手各社はホームページで情報を公開していません。

ただし、自己都合退職者を含むすべての転職者の賃金変動率状況については、厚生労働省の「雇用動向調査」で状況を確認できます。

30歳以上60歳未満の転職者では、37%が賃金増加、31%が変化なし、33%が賃金減少となっています(2016年)。年齢層別の状況を示したものが上の【図表2】で、高年齢者ほど転職後の賃金は減少する傾向にあります。しかし、たとえ30代前半であっても、転職して賃金が増えた人の割合は40%程度で、全転職者のなかで賃金が増えた人の割合をわずか3%上回るにすぎません。

リーマンショック後の調査(2010年)では、賃金増加が28%、39%が変化なし、賃金減少が33%。したがって、賃金が増えた転職者の割合は6年間で10%近く増えたわけですが、一方で賃金が減った転職者の比率は変わっていません。要するに、人手不足で売り手市場化が進んでいるにもかかわらず、転職者全体の賃金を底上げするまでには至っていないのです。

55歳以降の転職は年収が下がるから早期退職には応募してはいけないとか、30代で早期退職に応募できるならば応募した方がよいとか、まことしやかに語られる「転職あるある」がありますが、上記の調査結果から考えて“マユツバ”と言えるでしょう。年齢は確かに重要なファクターではありますが、どの年齢層でも転職して賃金が増える人と減る人は一定数存在するのです。

同様に、技術系職種はすぐ転職先が決まるとか、技能系は苦戦するとか、職種を基準に雑なくくりがなされることもありますが、こちらも安易に過信すると痛い目にあうでしょう。