「エホバの証人」元信者女性が自分の体験を漫画にした理由

「私は普通でありたかった」
いしいさや

エホバの証人では信者同士のことを「兄弟姉妹」と呼ぶのですが、兄弟姉妹で集まって毎週集会を行い聖書の勉強をしたり、「奉仕」と呼ばれる布教活動を行ったりするくらいです。争いや政治参加が禁止されているので、他の宗教団体と比べて派手な活動を行っていないし、有名な方もいないので、いたって地味な宗教です。

実際には、漫画で描いた通り、今思えばさまざまな「普通でない」ことがありましたが、小さい頃は、母の言うことにただ従っていたのでそれが「普通」だと思っていました。

でも、学校に通ってクラスメートと話したり、外の社会に触れ合う機会が増えたりするにつれ、私の生活がどうやら「普通でない」ということがわかってきました。家での「普通」と社会での「普通」の間に挟まれた私は、次第に苦しい日々を過ごすことになったんです――。

 

小さい頃から絵を描くことは大好きでした。エホバの証人では、漫画そのものは禁じられていません。だから、家にも母の本棚に『キャンディ・キャンディ』のような古い漫画がありました。好きだった漫画は、父の持っていた『ドカベン』です(笑)。野球はよくわからないんですけど、熱さが伝わってくるんですよね。

ちなみに父は信者ではありませんでしたが、母の活動を止めることはしませんでした。

ただ、漫画でもダメなものはあります。エホバの証人の教義では、「競争禁止」「政治参加禁止」など、禁止されていることがいろいろあります。

『ドラゴンボール』や『ポケモン』みたいな、戦いがある漫画はダメ。さらに厳格に「婚前交渉禁止」なので、その誘発をしかねない恋愛漫画もほとんど読めない。だから「りぼん」や「ちゃお」は読ませてもらえなくて、小さい頃クラスメートの女の子の会話に混ざれませんでした。

年を重ねた母親はもう漫画に触れることもないでしょうし、私が漫画を描いていることは話してないので、気づいていないと思います。

なにより、エホバの証人の信者は、「世の人」――信者以外のことをこう呼びます――がエホバの証人について書いたものを読んではいけないとされています。だからこの漫画の存在を知ることもないと思います。

新興宗教には、メディアに厳しく目を光らせている団体も多いようですけれど、エホバの証人ではそもそも争うことが禁じられているため、作品や報道に対して、抗議することもありません。政治活動が禁止なので、どこかの政党を応援することもない。

ただし、「奉仕活動」と呼ばれる勧誘だけは熱心に行います。その活動を支えているのは、一人でも多くに正しい聖書の教えを知ってもらい、一緒に楽園に行く仲間を増やしたいという、信者にとって本当の意味での「善意」なんです。それが良いか悪いかはわかりませんが。