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カズオ・イシグロ以外にも名作が!2017年の海外小説ベスト12

年末年始に読み逃したくないオススメ本
鴻巣 友季子 プロフィール

ノンフィクションも名作ぞろい

11 ダニエル・デフォー『ペストの記憶』武田将明/訳 研究社

『ロビンソン・クルーソー』の著者による、17世紀のペスト禍を語り伝える書。200年近く前の文献ですが、これがもう生きがよくて、面白すぎて、ぶっ飛びました。
架空の「一市民」を語り手に立てているので、ドキュメンタリーとはいえないものの、小説ともいえない。多くの資料に基づく、物語性の高い「語り直し」といえば良いでしょうか。

 

ペストの兆候が現れると、人々は恐慌をきたし、逃げ惑い、さすらい、狂気に陥ります。町中を裸同然の男が黙示録を叫んで走り回る。ペストは必ず襲ってくると言って商売をする“来る来る”詐欺みたいなものが登場。予防効果を謳った栄養ドリンクとか、「本物はウチだけ!ペスト酒」などのインチキ商品も山ほど売られました。

デフォーはペスト禍から半世紀余の後にこれを書いています。またヨーロッパでペストの発生があり、ロンドンに上陸する前にと、急いで記録をまとめたのです。そのため、構成に整わない部分があるようですが、この一見非効率的な書き方を訳者は卓抜に評しています。ある話題が途中で放りだされ、意外なところで再現し、読者を取り込んでいくさまは、ペストそのものだというのです。「真の語り手はペスト」だと。
ペスト的文体をもってペストを語る稀代の書。まるで現代のルポのように読ませる訳文もみごとです。

12 レベッカ・ソルニット『ウォークス 歩くことの精神史』東辻賢治郎/訳 左右社

最後は、『災害ユートピア』で知られるソルニットの想像力あふれる思想書。アメリカで今、いちばんモテモテの著作家のひとりです。本書は「歩く」こと、それにまつわる人間の知的活動をたどります。

猿人が直立歩行を始めたときから数百万年の時を経て、歩行はサバイバルのための生物学的戦略から、思索と創造の原動力、推進力へと変わっていきました。ヨーロッパにおいて文化的歩行の歴史はまだ数世紀。その原点には、思索する散歩者ルソーがいます。

ソルニットは人類学、文学、哲学、美学、政治、都市論、フェミニズムなどの領野を悠々と、ときに熱に浮かされたように渡り歩きます。原題はWanderlust。漂泊への想い。私たちは遠い祖先が立ち上がった時から、歩行熱にとりつかれているのです。