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カズオ・イシグロ以外にも名作が!2017年の海外小説ベスト12

年末年始に読み逃したくないオススメ本
鴻巣 友季子 プロフィール

三人の女性の謎が交錯するミステリ

9 ケイト・モートン『湖畔荘(上・下)』青木純子/訳 東京創元社

ミステリベストでも大人気のモートン。前作『忘れられた花園』につづき、イギリス南西部コーンウォールを舞台にしています。

あえて一言でいうなら、「シックスティーン・クライシス(16歳の危機)」の物語です。複数の時間軸を行き来するのがモートン流ですが、本作では三人の女性の人生、三つのストーリーが交錯します。

一つめは、1933年、コーンウォールの瀟洒な湖畔の別荘で起きた事件。二つめは、2003年、ある幼子の置き去り事件にからみ、ロンドン警視庁の女性刑事を中心とする物語。そして三つめは、20世紀初頭、第一次大戦や財政難をくぐり抜ける没落家のようすが語られます。一家の娘もまた16歳で、「危機」に立たされる。

三つの物語は謎解きの意外な二転三転を経て、巧緻かつ鮮やかに結ばれていきます。

終盤。あっと驚く「露見」があるでしょう。歴史小説としても、一族のサーガ(大河小説)としても、秀逸なゴシックミステリ。作者の手並みをご堪能ください。

10 コリン・バレット『ヤングスキンズ』田栗美奈子・下林悠治/訳 作品社

今年、わたしにとって翻訳文学の短編集では、本書がナンバーワンでした。コリン・バレット、要注目の新人です。

ざっくり言えば、アイルランドの地方都市にくすぶる若い子たちを描いた短編集。アイルランド版「トレイン・スポッティング」といって、当たらずといえども遠からず。

 

荒廃した田舎町にはよくある話といえばそうですが、それを描きだす筆が精緻ですばらしい。小さいけれど深く刺さって抜けない心の棘や、平凡な暮らしのなかに覗く狂気、ふつうの人たちの中に潜むグロテスクな欲望、失意と倦怠のなかに一瞬垣間見える淡い光、そうした捉えがたいものを、文学っぽい言葉をまったく使わずに描いています。

貧困ゆえに、暴力と犯罪が多発するメイヨー県の町。バイト先の話、飲み屋での話、バンド時代の黒歴史、なかでも文学史に残る傑作は、いちばん長い中編「安らかなれ、馬とともに」です。大麻の売人の「落とし前」をめぐる凄惨な話に、若い主人公の貧しい「家庭」の光景が挿入される。滓のように溜まった鬱憤と閉塞感が生む、つまらない面目と仕返しの連鎖。つぎつぎと起きることは悲劇以外のなにものでもありませんが、それを描きだす筆致はどこか飄然として可笑しみを感じさせます。他六編も、甲乙つけがたし。