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カズオ・イシグロ以外にも名作が!2017年の海外小説ベスト12

年末年始に読み逃したくないオススメ本
鴻巣 友季子 プロフィール

コミューンで洗脳されていく少女たち

3 エマ・クライン『ザ・ガールズ』堀江里美/訳 早川書房

チャールズ・マンソンという人物をご存じでしょうか? 先ごろ、終身刑で服役していた刑務所から搬送された病院で死去しました。享年83歳。1960年代~70年代を騒がせた、ヒッピーカルト集団の教祖であり、この集団によって、女優のシャロン・テートを含む多くの人たちが殺害されましたが、実際に手を下していたのは、マンソンに洗脳され教唆された若い青年や少女たちでした。

このマンソン・ファミリーに属していた少女たちをモチーフにした小説が、『ザ・ガールズ』です。コミューンに引き寄せられた少女たちはみな心に傷を負って、追いつめられており、教祖はその弱みにつけこみ、若い女性を次々と餌食にしていきました。

 

本作のいちばんの特徴は、マンソン役の男ではなく、少女たちの側からその危うい心理を描きだしている点です。14歳のヒロインであり語り手はコミューンの少女のリーダーにある意味、恋をし、彼女に認めてもらおうとして組織に深入りしていく――彼女も人の身に手をかけることになるのでしょうか?

メンバーの女性同士の関係に光をあてたところから、新たな考察とリアルな物語が生まれました。今こそ読みたい一冊。

4 マリオ・レブレーロ『場所』寺尾隆吉/訳 水声社

日本ではラテンアメリカ文学がこの10年ぐらい、またぐっと盛り上がっています。たぶん、ロベルト・ボラーニョ(今年、白水社の「ボラーニョ・コレクション」が完結)のブレイクなども関係しているのでしょう。

レブレーロは再評価の波が来ているウルグアイの作家。訳者によれば、中南米で、メキシコは長編の国、アルゼンチンは短編の国、チリは詩人の国、そしてウルグアイは「奇人の国」とみなされているとか! 

『場所』も、とにかく最初から最後まで、「どうしてそうなるの!」「一体なんなの!」という状況が延々とつづき、もう最後は、意味不明との根競べみたいなもの。

ひとりの男がバスを待っていたはずが、目を覚ましたら見知らぬ真っ暗な部屋にいる。ドアを幾つも幾つも開けて、ようやく出会った人物とはまったく言葉が通じず……。

『不思議の国のアリス』のようなカフカのような、奇想とシュールレアリスムと不条理小説のショーケースのごとし。訳者いわく、「レブレーロはウルグアイの安部公房」。寺尾隆吉/編の水声社のラテンアメリカ叢書「フィクションのエル・ドラード」も、キレッキレのセンスなのでぜひ。

5 キム・スコット『ほら、死びとが、死びとが踊る ヌンガルの少年ボビーの物語』下楠昌哉/訳 現代企画室

こちらは、着々と良書を送りだしている「オーストラリア現代文学傑作選」の一冊。先住民と欧米人との接触を扱った、いわゆる「コンタクト・ノベル」です。1826年ごろからの物語が、アボリジニの子孫の作者によって語られます。

舞台は西オーストラリアの南岸、現在のアルバニーのあたり。入植者とアボリジニの「交流」が比較的おだやかに行われた「友好的フロンティア」とも称された地域です。主人公の少年ボビーは天性の歌唱とダンスの才能と不思議なカリスマ性で、幼くしてヌンガルのリーダー的存在になり、一方、入植者たちにもかわいがられ、アボリジニと欧米世界を結ぶ架け橋となる。しかし、先住民と入植者の「交流」が友好的なばかりではなかったのは、歴史が物語っています。

視点と時間軸が自在に移ろい、地の文と人々の声が奔放に融けあう本作の文体の源泉には、集合的歴史と記憶を扱うアボリジニの神話体系「ドリームタイム」があるのでしょう。この文体の翻訳にはさぞかし苦労されたことと思います。

ボビーたちの希望はいったん打ち砕かれましたが、現在の豪州の多文化・多民族共生の動きとして息を吹き返しています。