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カズオ・イシグロ以外にも名作が!2017年の海外小説ベスト12

年末年始に読み逃したくないオススメ本
鴻巣 友季子 プロフィール

文学賞総なめの話題作

1 コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』谷崎由依/訳 早川書房

南北戦争の対立構図を背景に、あるいはモチーフに、現在の米国の分断を浮彫りにする小説が、この数年、米国で急に増えています。本書もそのひとつですが、他にも、第二次南北戦争が起きるという、オマル・エル=アッカドの『アメリカン・ウォー』、奴隷制と隔離政策を再び導入するという、ポール・ビーティーの「The Sellout」(未訳)、女性が南北戦争の兵士となる、レアード・ハントの『ネバーホーム』などが挙げられます。

『地下鉄道』は、南部奴隷を北部に逃がすための地下組織のコードネーム。南部のプランテーションの奴隷である「コーラ」は母が逃亡して以来、みなしごの身で凄まじい暴力とレイプに耐えて毎日を生きています。あるとき、仲間に北部への脱走を誘われますが、彼女の母を取り逃がしたことで復讐に燃えている奴隷狩り人が、手下を従えて執拗に追ってくる! 凄惨な虐待と反逆、スリリングなチェイスが、ドライで装飾のない文体で描かれます。訳者いわく、クレイジーで凶暴な追跡団はマッドマックス風の演出で映像化したらたいそう映えるだろう、と。

 

作者は核心を書きません。いったんそこをスキップして、後の描写から読み手に想像させるのです。これが抜群にうまい。ヒロインはジョージアからサウスカロライナ、ノースカロライナ、インディアナと逃げていきますが、彼女を新たなディストピアが待ち受けます。ピューリッツァー賞、アーサー・C・クラーク賞、全米図書賞など、主要文学賞を総なめの超話題作。

2 ベン・ファウンテン『ビリー・リンの永遠の一日』上岡伸雄/訳 新潮クレスト・ブックス

現在のアメリカ合衆国が直面するあらゆる危機はどこから来ているのか。それは、この国で目下売れている前出のディストピアものや南北対立もの、そしてイラク戦争を背景にした本書『ビリー・リンの永遠の一日』、およびその訳者の上岡伸雄さんが翻訳している、イラク戦争を材にした短編集『一時帰還』、ベトナム戦争を描くスパイ小説『シンパサイザー』、さらに次に挙げるヒッピーカルト集団をモチーフにした『ザ・ガールズ』などを読むと、少しずつ見えてくるかもしれません。

『ビリー・リンの永遠の一日』は、スポーツの熱狂と一体感に潜むファシズムの危険を描いた、イラク戦争版『キャッチ=22』と称される小説です。

NLFの選手の国歌斉唱時の起立拒否が問題になっていますが、アメリカ人の多くにとって、フットボール、殊にNFLの試合は、たんなるスポーツではありません。誇りであり、祈りであり、信心といってもいい。そこでの出来事は大きな社会的関心を引き起こします。

『ビリー・リン~』の著者は、こうした異様なフットボール熱は、「軍国主義、ポップカルチャー、アメリカの勝利主義、ソフトコア・ポルノのシュールな、そして明らかにクレイジーなごたまぜ」となり得ると感じて、本作を書いたと言います。

19歳の兵士ビリーと「ブラボー分隊」の8人は、あることをきっかけに、英雄に祭り上げられ、NFLリーグのハーフタイムショーに出演することになるのですが……。サッカー、バレー、相撲、とスポーツには愛国心がつきもの。そのなかに紛れた排外主義や全体主義の力を改めて考えさせられる秀作です。