水道橋博士がついに「ビートたけし正伝」を書く日

芸能界について書くということ【後編】
水道橋博士, 田崎健太

田崎 納得するまで徹底して書くというのはぼくも同じです。今、連載している佐山サトルさんについては、可能な限り、映像や資料に当たっている。本人は時間が経って記憶が薄れてくるんですが、ぼくは日時、場所などを特定して話を聞いていく。最近、佐山さんはトークショーで「オレより田崎さんのほうがオレのことに詳しい」って言ってるらしいんですよ(笑)。
 
博士 憑依ですね(笑)。でも、なぜ自分がそこまで佐山さんを調べつくすのか、ということの答えは出てるんですか、田崎さんの場合。

田崎 うーん、佐山さんって単純に面白いんですよね。カリスマ性、革新性という意味で(ビート)たけしさんに似てるところがある気がするんです。

ぼくは20代のときに勝新太郎さんに出会いましたが、勝さんは年が離れていたので、ぼくは孫のような立場でした。一方、博士とたけしさん、あるいは佐山さんと初期の弟子の関係はもっと濃い。20代のときに出会っていたら、それは影響を受けますよね。太陽のような師匠に近寄りすぎて、燃えつきてしまった弟子もいることでしょう。

こんなに面白い人がいるのに、世間は十分に知っているわけではないから、じゃあ、俺が伝えなきゃいけないな、と。当然それは世に残るものになるんだから、中途半端に調べて書くわけにはいかないでしょう。「よくそんなに調べますね」って取材相手からも言われますが、ぼくたちからすれば、それは当然のことなんですよね。

『ビートたけし正伝』を書く日

博士 田崎さんにとっての佐山サトルは、ボクの場合は百瀬博教さんであり、やっぱり殿(たけし)なんだろうなぁ。百瀬さんに関しては、もう原稿も書いてるけど、10年くらいずっと密着して裏取りだけをやってましたね。

田崎 そうなんですか?(笑)でも、百瀬さんの発言の裏なんて取れるんですか。

博士 いや、取れましたよ。ただ、百瀬さんとあまりに密着しすぎて、もはや「黒い交際」状態だったよね。実際、本当に途中から格闘技の利権を巡って暴力団とかが暗躍し始めて、百瀬さんもマンションを出る時に必ず防弾チョッキを着るようになって。その後ろを毎日付いて行ってたんだけど、これ、本当に大丈夫なのかなって…。

田崎 流れ弾が飛んできたとしても、博士さんは防弾チョッキは着ていませんからね(笑)。

博士 そういう取材を、実は百瀬さんが2008年に亡くなる前の10年間にやってたんですよ。で、その当時のことを、次に「新潮45」で連載しようと思ってるんだけど。

田崎 おお! じゃあ、スタートは決まってるんですね?

博士 決まってるから、言っちゃって大丈夫。それで、その『百瀬博教伝』が終わったら、今度こそ殿について、つまり『ビートたけし正伝』を書くつもりです。もうそれでほとんどライフワークは完成だね。

田崎 ついに、そこに行くんですか。もう、書くことが本業じゃないですか(笑)。

博士 ボクの中では、本を書くことは「副業なのに『本業』」という感じなんです。50歳を過ぎて、もう人生の半分以上は消費してしまったわけだけど、それなのに書きたいものはまだまだある。言ってしまえば、まさに『ビートたけし正伝』を書くためにボクは生まれてきたんじゃないか、という天命さえ感じるようになったから、絶対に最後まで書きたいですよね。

殿にも前々から「いつか取材させてください」って言ってます。ずっと無理だと思っていたけど、こうして『藝人春秋』シリーズを書いているのも、いわばそこへの助走なのかもしれない。

この前、殿と会ったときに、「今まで映画の賞を含めて、どれくらいの賞をもらったんですか?」と聞いたら、「うーん、分かんねえな。あとは(獲っていないのは)ノーベル文学賞と直木賞くらいじゃないか」と返ってきたんだけれど、あながち冗談に聞こえない(笑)。殿もこれから小説を書いて直木賞を狙うかもしれないんです。そうなると、芸人としてはとても殿には一生勝てないけれど、せめて書くものだけでも師匠に挑んでいく、と。師弟のなかで競い合いたい、そういう気持ちは持っていますね。

田崎 ぼくにとっても芸能界の「最後の大物」たちは取材テーマの一つです。おそらく、博士と僕は同じような感覚がある。それはやっぱり、戦後日本の「藝」とか「芸能界」というものが、今まさに歴史になりつつあるし、またその一方で何かが失われようとしているからだと思うんですよね。だから、そこに立ち会うことができる人間、知っている人間が書き残すしかない。

博士 書く側も書かれる側も、残された時間はそう長くないですから。今日は刺激を受けました。これからも一緒に頑張って書いていきましょう。

ところで、この前こんな話を聞いたんだけどさぁ…(と、ここから「書けないこと」の爆弾トークが炸裂。この話も、いつの日か『藝人春秋』続編で読める日が来るのかも…?)。

                                   (了)