水道橋博士がついに「ビートたけし正伝」を書く日

芸能界について書くということ【後編】
水道橋博士, 田崎健太

書いて、人を傷つけるということ

田崎 そうそう、そこをどうしてるのかなって思ってたんですよ。博士の場合は常に取材している状態だから、取材とオフレコの線引きが難しいじゃないですか。

先日、「AERA」で大崎さんを書くにあたって、中田カウスさんに取材してきました。カウスさんもまた『偶然完全 勝新太郎伝』を気に入って頂いて、番組に呼んでもらってから付き合いが続いているんですが、実はきちんと取材をするのは始めてでした。その時は、1時間ぐらいバーっと喋ったら、「もう(ICレコーダー)切ってや。こっからは友だち関係や」と。それから食事に行ったんですよね。

もちろん、そうした場所で聞いた面白い話は、後々使うか使わないかは別として、後でメモしています。ただ、ぼくの場合はそういう風にスイッチのオン・オフがあるけど、博士の場合は24時間スイッチを切らないわけでしょ?

博士 切らないようにしてますね。むしろ、切れないんですね。

田崎 まさにノンフィクションの基本は、取材相手との距離の取り方じゃないですか。でも博士の場合、距離も何も一緒に働いてる人たちが対象だし、そこの考え方は僕とはかなり違うんでしょうね。ぼくだったら極論を言うと、書いて傷つけてしまっても、そこで関係が終わりとなるだけ、ともいえる。でも博士は、これからも同じ世界で生き続ける人たちのことを書くわけだから、そんな簡単な話でもない。

博士 まさにその距離感こそが、「書いて傷つけること」の問題につながるんだよね。

この前、「週刊文春」で連載中の「週刊藝人春秋Diary」で松本人志さんのことを書いたんですよ。太田光との関係とか。その時はいろんな人に書くべきかどうかを相談して、なかには「本当に博士のことが好きだから忠告しておくけど、これは止めたほうがいい」と言ってくれる人もいたんだけど、その方の顔は潰さないようにして、結局書くことにしたの。

松本人志さんという芸人は、先輩であるし、この世界の頂点に長年君臨する最高に能力のある畏怖すべき存在だと思ってるし、むしろ圧倒的にファンだし。

だけどやっぱり、書き手としては関わり合いがあれば彼とのことを書かざるを得ない。将来的にまた1冊の本にまとめる時には、本当に言いたかったことが伝わるように書き直すつもりだけど、週刊誌連載の時点では、まるでボクが松本さんを揶揄してるだけみたいに見えるのも仕方がない。特に彼の周辺の人があれを読んだら、「もう水道橋は松本には近寄らせない」となるのも当然でしょう。

でも、そういうことも乗り越えていかなきゃ。いつか、単行本の完成形が出たときには本人だってわかってくれるはずだ、と思うしかない。

田崎 本当に、それが書くことの辛さですよね。

 

編集者と「共謀」する楽しみ

博士 「こういうことを書き続けてテレビの仕事が来なくなったら、毎日原稿が書けるな…」という気持ちもどこかにあるんだけど、やっぱり子供たちもまだ小学生だし、(私立の)早稲田実業(高校)にだって入れたいしさ(笑)。あ、これは田崎さんの最新刊『ドライチ』の荒木大輔(現・北海道日本ハムファイターズ二軍監督)の章が良かったからなんだけど(笑)。

田崎 荒木さんの早実の仲間は素敵ですよね。荒木さんが甲子園で活躍して、騒がれるようになった後、みんなで彼を守ろうとした。野球に打ち込むけれど、勉強も疎かにしない。お子さんを早実に入れたいという気持ちは分かります(笑)。

博士 でも、ボクは銀座に行って飲むこともないし、ゴルフもやらないし、麻雀もギャンブルもやらないし、あれほど好きだったのに(笑)、風俗にも行かなくなった。結局は執筆してる時間とか、編集者と一緒に読み合わせしながら、バカ話をしてる時間が本当に一番楽しいんだよね。

そう考えると、テレビ番組のコメンテーターなんてプレッシャーも大きいし、実はテレビの仕事よりも書くことのほうが好きなのかもしれない。経済的な効率は、文筆業のほうが圧倒的に悪いけど。

田崎 まさにぼくも博士と同じで、取材がある程度進んだ時点で、編集者とこんな風に書こう、あの人にも取材しに行こうって言いながら酒を飲むのが、一番楽しい。それが当然だと思っていたのですが、そうではない書き手が結構いると知って驚きました。どんな風に取材が進んでいるのか理解してくれる人間と、ブレーンストーミングをしていく過程が楽しいのにって。

博士 『ドライチ』でも、(元阪神タイガースの)的場寛一さんを取材しているときに、「ドラフト1位をテーマにしよう」と思い立ったわけですよね。そのアイデアが浮かんだ瞬間、もう頭の中ではコンテ(註・原稿の見取り図)ができてるわけでしょ。ドラフト1位の人はこれだけいるから、この人にこれを聞けばこんなことが書けるな…とか。あとはその空白を、編集者と一緒に埋めていく。編集者にその作業の「共犯者」になってもらうことの楽しさたるや。