「日本有線大賞」は終わっても「紅白歌合戦」は生き延びる単純な理由

マスの時代はとっくに終わっている
三浦 文夫 プロフィール

マスの「断片化」が生んだもの

2000年以降、ここまでご説明してきたような中心部と周縁部という構造はインターネットによって破壊されていきます。なかでも、YouTubeの影響力は計り知れません。2016年の日本レコード協会の調査によると、最も利用されている音楽聴取手段はYouTubeの42.7%で、テレビの24%、ラジオの21.6%を大きく引き離しています。

2005年にYouTubeが登場した当初、音楽産業の側にはプロモーションメディアの一つといった程度の認識しかありませんでした。それがいまや音楽を聴く主な手段となったのです。しかも、無料が当たり前だという認識をオーディエンスに植えつけてしまった。そう言ってみたところで、いつでも好きな音楽を引き出せることのインパクトはやはり大きいのです。

映像産業でも同じような現象が起きています。YouTube、ニコニコ動画、Netflix、Amazon Primeといったプラットフォームと、スマートフォン、タブレット、PCなどの多様な視聴デバイスが普及し、テレビの独占は崩れました。いまやあらゆるジャンルのコンテンツが揃い、いつでも好きな世界に浸ることができます。大きな塊だったマスはすでに「断片化」されたのです。

ただし、誤解のないように指摘しておきたいのは、断片化によって一つ一つの市場が小さくなる(そしてビジネスが成立しなくなる)ことではなく、中心部と周縁部の落差というダイナミクスを失うことこそが問題の核心だということです。

メジャーな中心部が強固であるからこそ、そのカウンターとしての周縁部が先鋭化し、新たな表現文化が生み出されてきた経緯は、ここまでご説明した通りです。しかし、断片化によって一つ一つの市場が持つ規模や熱量が平準化されることで、先鋭化するはずのクリエイティブなエネルギーが失われていくことを、私は憂慮しています。

 

視聴率「10%超」が意味すること

年末の音楽番組に話を戻しましょう。

かつて50%を超えたこともあるTBS系列「輝く!日本レコード大賞」の視聴率は、2016年に14.5%でした。今年の年末音楽特番については、第50回の節目を迎えて終了したTBS系列「日本有線大賞」が8.9%、フジテレビ系列「FNS歌謡祭 第1夜」が13.6%、テレビ朝日系列「ミュージックステーションSUPER LIVE」が14.3%、日本テレビ系列の「Best Artist 2017」が15.2%でした。

いずれの特番も明確な音楽的主張はなく、例によって人気アーティストを並べ、企画モノで視聴率を稼ぎたい意図が透けて見えます。断片化したクラスタを少しでも多く拾い集めて、総合的に視聴率を稼ごうというわけです。

たとえば、平均視聴率が11.1%だった「FNS歌謡祭 第2夜」の最高瞬間視聴率は、18年ぶりに集結した「モーニング娘。」の1期メンバーが出演した13.6%。活動中のアーティストを集めるだけでは不十分なため、テレビ視聴を支える40代以上にも刺さる「モー娘」の再結集という企画モノで上乗せを図ったのです。

視聴率10%超という数字については、それだけでシーンを作れるほどではないものの、インターネットを介して情報を広げるトリガーとしては十分に機能する、とでも言えばいいでしょうか。音楽やアーティストのプロモーション関係者にとっては相変わらず大きな数字ですし、日本有線大賞の終了を契機に他の番組もドミノ倒しになる「危険水域」の数字かと言われれば、そんなことはまったくありません。

(筆者注・日本有線大賞の表彰そのものは形を変えて存続する可能性があります)

ただ、一つだけ間違いなく言えるのは、断片化したクラスタを集めて何とか視聴率をキープする現在のような発想では、テレビから何か新しい音楽文化が生まれることはとうてい期待できないということです。

ももいろクローバーZ同じ「音楽特番」でも、紅白歌合戦は音楽関係者にとって「到達点」の一つなので… photo by gettyimages

さて、紅白歌合戦はどうでしょう。かつての輝きを失ったとはいえ、昨年の視聴率は40.2%(第2部)と、民放の音楽特番とは比較にならない数字です。おそらく今回は、安室奈美恵の出演時が瞬間最高視聴率を稼ぐと思われます。

紅白は「年に一度、お茶の間での家族団らん」というマスの残滓が実体化する、日本における特殊な時間帯であり、音楽関係者にとってはジャンルを問わず一つの到達点の象徴でもあります。そういう意味で、他の音楽特番と同列で語るのはふさわしくない、日本ならではの「例外」と言っていいのではないでしょうか。