「日本有線大賞」は終わっても「紅白歌合戦」は生き延びる単純な理由

マスの時代はとっくに終わっている
三浦 文夫 プロフィール

テレビと音楽のビジネスモデル

ところで、多くの人が何となくわかっていることだと思いますが、地上波民放テレビのビジネスモデルは視聴率を媒体価値の基準とすることで成り立っています。

たとえば関東地区なら、テレビスポット広告15秒は視聴率1%当たり○○万円(「パーコスト」と呼ばれる)というような相場が成り立っています。したがって、できるだけ高い視聴率をとる=マスをつかむことが、ビジネスに直結するのです。

ちなみに、ここで言う視聴率とは、テレビ受像機の所有世帯数を分母として、ある番組が流れているテレビ受像機の数を分子とする「世帯視聴率」を指しています。最近はテレビを所有しない単身世帯が増えていますが、当然それらは分母から除外されます。また、80年代までは3人を超えていた平均世帯人数も、2016年には2.47人(厚生労働省)まで減っています。

何が言いたいかというと、要するに、同じ1%の視聴率でも、70年代と現在のそれと比べると、実際に番組を見ている視聴者の数は減っていると考えていいわけです。

一方、音楽産業のビジネスモデルは、レコード(80年代後半からはCD)を中心とするものでした。レコードビジネスには、スタジオ、エンジニア、ミュージシャンなどの制作費、さらには製造費、流通費、宣伝費などさまざまな経費がかかります。わかりやすく言えば、アルバム原盤1枚に1000万円の制作費を投じたレコードなら、3万枚程度のセールスが損益分岐点(リクープ)となります。

しかしながら、リクープに達して初期投資を回収したあとの利益率はきわめて高く、仮に10枚のアルバムをリリースしてそのうち9枚が赤字だったとしても、残り1枚が10万枚を超えるヒットとなれば、ビジネスは十分成立するという構造だったのです。

ちなみに、日本の音楽ソフト市場は1998年にピークの6075億円に達したものの、2016年には2306億円(ネットを通じた有料配信含む)と、この20年間ほどで約3分の1に落ち込んでいます。それでも、市場規模としてはアメリカに次いで世界第2位、そのシェアは約18%です。

 

「時間よ止まれ」と「CHA-CHA-CHA」の時代

1970年〜80年代にかけては、TBS系列「ザ・ベストテン」、日本テレビ系列「ザ・トップテン」、フジテレビ系列「夜のヒットスタジオ」を代表格に、20%、ときには30%を超える高視聴率を稼ぐレギュラー音楽番組がいくつもありました。

当時の音楽のプロモーション活動は、「皿回し」と呼ばれるラジオでのオンエアが中心でしたが、一方でテレビ出演のインパクトには非常に大きいものがありました。さらに、1978年の「時間よ止まれ」(資生堂、矢沢永吉)などのCMタイアップ、1986年の「CHA-CHA-CHA」(男女七人夏物語、石井明美)などのドラマ主題歌からヒット曲が生まれるようになると、テレビの重要性はさらに高まっていくのです。

そのようにして、テレビを通じた露出によってアーティストや音楽の存在がマスに伝わり、逆に人気のアーティスト、ヒット曲を組み合わせることによってテレビ側も視聴率を稼げるという、相乗効果あるいは相互依存の図式が生まれていきました。

それと同時に、テレビがマスのトレンドに合わせた番組を制作し、それがマスの憧れや欲望をますます増幅するという循環が起きたことで、「中心部」「メジャー」な音楽はより強固な存在になりました。一方、そこからはみ出した周縁部のアーティストたちは先鋭化し、新たな音楽文化を生み出していくことになるのです。