正月飾りに秘められた驚きの科学~日本人にとって「結び」とは何か

世界でも類をみない精神文化と思想性
畑中 章宏 プロフィール

たとえば祝儀や不祝儀の際に用いられる「水引」は、市販のものでは結び方が統一されているが、本来は家ごとに独自の結び方である「家結び」があった。

家結びと家紋の関係は深く、皇室の紋章は16弁の菊だから、結びも16弁の花形の結びである。日本の家紋は最も多い時代には約1万2000種、現在残っているものだけでも約7000種はあるといわれている。

平安時代の陰陽師、安倍晴明は「五行」(木・火・土・金・水)の象徴として、「五芒星」の紋を用いた。

五芒星は英語でいうところの「ペンタグラム」で、互いに交差する、長さの等しい5本の線分から構成される図形で、洋の東西で魔術の記号として用いられる。陰陽道でも魔除けの呪符とされ、紐を綾どり、結びの穴を強調して文様化したものである。

晴明の五芒星は「安倍晴明判」や「晴明桔梗」とも呼ばれて、現在も晴明神社の社紋になっている。

晴明神社の社紋(筆者撮影)

「あみだくじ」を幾何学から捉える

先述した額田巌は、こうした文化としての「結び」を科学と結びつけた。

額田には『結ぶ』『結び目の謎』『結びの文化―日本人の知恵と心』などの著作があるほか、『通信用継電器』『継電器及継電器回路』、あるいは『決断する人のための経営科学入門』『あなたもプログラマになれる―ソフトウェア教育の手引』というタイトルの本も世に送り出している。

早稲田大学理工学部を卒業後、日本電気株式会社(NEC)に入社した額田は、継電方式(スイッチング)の部門に配属され、回路接続から「結び」に興味を持って、本格的な研究を開始した。

 

日本電気では当時、位相幾何学(トポロジー)が流行していた。

位相幾何学は、長さや大きさなどの量的関係を無視し、図形相互の位置やつながり方などを、連続的に変形させて、その図形の不変な性質を見つけたり、またそのような変形のもとでどれほど異なる図形があるかを研究する学問である。

〔PHOTO〕iStock

額田はこのような数学理論から、多種多様な結びを解析かつ分類し、独自に図形化することで、結びの神秘を科学の目で捉えていったのである。

額田はまた、回路網の研究と並行して、「あみだ」の接続についても研究を続けていた。「あみだ」とはもちろん、線のはしに「あたり」「はずれ」などを書いて隠し、引き当てる「あみだくじ」のことである。

あみだの接続は「群論」によって解明するべきと考えられていたが、額田は位相幾何学として図形的に解くほうが適していると考え、「結び」の解明にも生かした。