楽天が「携帯事業に参入」勝ち目はどこにあるのか

インフラを握るという「野望」
加谷 珪一 プロフィール

楽天が参入する理由

楽天はフリーテルの買収で格安SIMのシェアを広げることに成功したわけだが、格安SIM事業者にはどうしても超えられないカベがある。それは余剰回線のほとんどをドコモが押さえてしまっているという現実である。

ドコモなど回線を所有する事業者が、MVNOが不利になる行為を行うことは競争政策上、厳しく制限されており、こうした政策が存在することでMVNO事業者は自由にビジネスができる。だが自前の回線でない以上、MVNO事業者は価格設定やサービス面において100%の自由度を発揮することができないのもまた事実である。

楽天がわざわざ大きなリスクを取って、自らインフラを所有する事業者になることにはこうした背景がある。フリーテルの買収が発表された時には、なぜ、フリーテルを買収するのかと疑問視する声も多かったが、本格的な携帯電話事業への参入が前提であれば、顧客基盤の買収ということになるので辻褄が合う。

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では、楽天が本格的に携帯電話市場に参入した場合、通信料金はどう推移するのだろうか。

2015年に安倍首相が突然、「日本の携帯電話料金は高すぎる」という趣旨の発言を行い、業界に激震が走った。通話(通信)料金が高すぎるという安倍氏の発言は、半分は当たっているのだが、半分は当たっていない。

というのも、通信サービスというのは完全な設備産業であり、どの事業者がどの地域で取り組んでも、同じようなコストがかかる。

ある事業者だけが極端な低価格を提示することは、よほどの財務的余裕がない限り、困難といってよい。実際、総務省が行った国際比較調査でも日本の通信料金だけが特別に高いという結果は得られなかった。

一方、日本の通信サービスが硬直的で不親切なのも事実だ。料金体系が分かりにくく、諸外国のように端末と通信会社を自由に選択することができない。

格安SIMの登場後もその状況はあまり変わっておらず、本格的な競争を誘発するには、第4の携帯電話会社の参入が必要という話になる。

 

楽天は大手3社と戦えるか

先ほど説明したように、携帯電話事業は完全な設備産業なので事業者間でのコストに大差はない。楽天の参入によって一気に価格が下がるという可能性は低いだろう。

だが楽天は回線保有事業者としてより柔軟なサービス設定や価格設定が実現できる。少なくともユーザーの選択肢は広がることになるので、消費者にとっては歓迎すべきことといってよいだろう。

楽天が分かりやすい透明な価格体系を前面に押し出せば、有利に事業を展開できる余地は十分にある。

では、楽天全体のビジネスはこれからどう推移していくのだろうか。

携帯電話事業への参入は、同社の将来を左右する極めて大きな決断であることは間違いない。だが携帯への参入以外にも、同社にはいくつかの選択肢があったはずだ。

ひとつはアマゾンの追撃をかわすためAI(人工知能)の開発に大型投資を実施するという選択肢、もうひとつは小売店などリアルビジネスを買収するという選択肢である。

アマゾンはこのところAIを駆使した新しいサービスを次々に登場させており、徹底した利便性の追求によって楽天との差を縮めようとしている。楽天は若年層から高齢者まで幅広い利用者を抱えているが、一方のアマゾンは比較的、若い世代の利用が多いと考えられる。テクノロジーを駆使した最新サービスとアマゾンの親和性は高い。

これに加えてアマゾンは、アスクルやモノタロウに対抗した新サービス「アマゾンビジネス」を2017年9月にスタートさせている。もし楽天が全方位でアマゾンからの追撃をかわそうとした場合、かなりの先行投資が必要となり、大きな事業リスクを抱えることになる。