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ティファニーがオープンハートの「売り切れ証明書」を出した理由

クリスマス・トリビア【戦後編】

キリスト教伝来以来の日本のクリスマスをずんずん調べた堀井憲一郎さんに、調査で印象に残った「戦後のクリスマス風景」を点描してもらった。

クリスマスの少年犯罪

日本のクリスマスについて調べていると、いろんなトリビア的な小ネタが拾える。それをいくつか紹介していきます。

まずは「少年のクリスマス窃盗2題」。

ひとつはいまから66年前、昭和26年のニュース。

「Xマスに弟妹へ贈物 少年工員 白木屋に入り捕る/10日午前四時ころ白木屋で風呂敷包みをかついだ少年を逮捕。五階のガラス窓を破って忍び込み、ジャンパー、クツ下、マフラーなど十四点(一万五百円)を盗んでいた。「クリスマスに弟と妹に何かやりたかった」と少年(18)はいっている」

1951年12月10日(月)の記事である。

白木屋はのちの東急百貨店。東京有数のデパートだった。そこに深夜に忍び込んだ少年はクリスマスに弟と妹へのプレゼントを盗んだのである。盗んだものをあげるつもりだったのか、それを売った金であげるつもりだったのか、そこまでは報道されていない。しかし時代をあらわす「貧の盗みの出来心」(落語でよく使われるフレーズ)である。

これから52年後、2003年にも少年のクリスマスの盗みの記事があった。

2003年12月21日の新聞。

「「Xマス彼女に贈り物代欲しくて」ひったくり容疑 逮捕2少年供述 品川」

「警視庁は19日、品川区内で自転車の女性からバックをひったくったとして、区内に住む都立高校2年の少年(17)と無職少年(16)の2人を窃盗容疑で現行犯逮捕した。2人とも調べに「彼女へのクリスマスプレゼント代が欲しかった」と話しているという」

2人は原付で自転車を追い抜きざま、前かごにあったバッグを盗んだ。盗まれたのは若い女性。ただ、近くを警邏していた警察官に見つかり、すぐに捕まった(原付に2人乗りしている若者はあきらかに怪しいですしね)。

こちらは、彼女へのクリスマスプレゼントのためのひったくりである。

1951年は弟妹へのプレゼント、2003年は彼女へのプレゼント、似ているようだが、やはりちょっと違う。

2003年のほうは貧乏なのだろうけれど、でも「見栄の盗み」に言える。哀れさが感じられない。弟妹へのプレゼントの盗みには哀愁があるが、彼女へのプレゼントの盗みには、そこまで無理しなくてもとおもってしまう。

クリスマスの少年の犯罪にも時代の違いが出てくる。

 

ティファニーが出した「売り切れ証明書」

女性にねだられたプレゼントを用意できなかったら世界が終わってしまうのではないか。そういう恐怖を男性が強く持ち始めたのは、バブル時代からでしょう。

1990年には、当時大流行していた「ティファニーのオープンハート」の記事がある。クリスマスにくれるのならこれがいい、とねだられた男性が多かったのだろう。

銀座三越百貨店のティファニーではオープンハートが入荷した12月15日に開店と同時に売り場には二重、三重の人だかりができた。9割が若い男性だった。

「同店では昨年(1989年)の同じころにもこのペンダントが売り切れになり、「彼女に言い訳ができない」という客に、店員が個人的に〝売り切れ証明書〟を一筆したためたことも」

と記事にある。

この〝売り切れ証明書〟が出されたというのは、一種の都市伝説として当時から広がっていったのだが、どうやら本当のことだったらしい。さすがに朝日新聞の記者はきちんと取材して書いてるだろう。

1989年の銀座三越のティファニーではオープンハートの〝売り切れ証明書〟を発行したのである。過ぎてしまうと、どの時代も奇妙に見えてくる。