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# インテリジェンス # 公安警察

公安に検挙された「官邸のスパイ」が告白する驚愕の疑惑

公安vs.スパイ「諜報全史」第4回
日本の中枢に属する情報組織・内閣情報調査室の元職員が語る衝撃の告白。北朝鮮や米国・ロシアの元工作員、公安警察への取材を重ねてきた報道記者・作家で『スリーパー 浸透工作員の著者でもある竹内明氏が、日本社会の「水面下」で繰り広げられている諜報戦の実像に迫ります。

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ついにやってきた「運命の日」

日本の中枢に属する情報機関、内閣情報調査室。その元職員である水谷俊夫氏(仮名)は、海外情報の勉強会で紹介されたロシア大使館員たちと付き合ううち、現金を渡されるようになった。

カネには中毒性があった。やがて彼は、所属する内閣衛星情報センター、通称「ホシ」に送られてくる海外メディアの記事から、当たりさわりのない中国情勢の分析レポートを作成しては、ロシア側に渡すようになっていた。重要文書ではないとはいえ、内部文書であることに変わりはない。

そんな綱渡りの生活を数年続けたある日、水谷との待ち合わせをロシア大使館員のベラノフがすっぽかした。水谷はまだ知らなかったが、彼らの動きは警視庁公安部外事一課、「ソトイチ」にマークされていたのだ。

<ここまでの経緯は、こちらに詳述した→現代ビジネス「カネで堕ちた「官邸のスパイ」が公安に追いつめられるまで」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53858

 

「その後、ベラノフからは電話で『これからは会食を日曜日にしましょう』と言われたのですが、そのときにおかしいと思うべきでした。

ベラノフは、すでに外事一課の動きに気づいていて、日曜日なら尾行が手薄になると判断していたのだと思います。何も知らずに脳天気だったのは私だけでした」

水谷は唇を噛む。

そして運命の日が訪れた。

2007年12月9日、日曜日。水谷は都内の家を出て、待ち合わせの川崎に向かった。

これまで、ロシア大使館員とは東京都内のレストランを利用していたのだが、この日は初めて多摩川の向こう、神奈川県内の店を指定された。

なぜ、川崎なのだろう――。

水谷は、胸騒ぎを覚えながら電車に揺られた。

ハプニングに見舞われた尾行チーム

この日、ソトイチの尾行チームは、川崎の接触場所を把握していた。前回接触した店での水谷とベラノフの会話を、高性能集音マイクで拾っていたのだろう。

ソトイチでは、対象を同じ捜査員が尾行し続けることはしない。行動を先読みして、待ち伏せした捜査員が尾行をリレー式に引き継いでいく。

しかしこの日は、ちょっとしたハプニングがあったという。ソトイチは水谷が、武蔵小杉駅経由のJR南武線で川崎駅に向かうと読んでいたのだが、実際には東急池上線に乗り、JR蒲田駅経由で川崎に行くという想定外のコースをとったのだ。

このため本来、途中で行う予定だったバトンタッチができず、水谷の自宅から尾行を始めた捜査員が、川崎まで追うことになってしまった。

ベラノフとの待ち合わせ場所は、京急川崎駅近くの新しい商業ビル内にあった。5階レストランフロアにある焼き肉店。平均予算は、一人4000円程度の店だ。

水谷がエスカレーターで5階まで昇り、そこから10メートルほどの場所にある店の入り口に入ろうとしたときだった。突然、視界に3冊の警察手帳が飛び込んできた。

目の前に立ちはだかる男たち。その中に、見覚えのある顔があった。

「ああ、Sさん……」

顔見知りのSは、以前、内閣情報調査室に出向してきていた元公安警察官だった。この時点でも、水谷は自分に危機が迫っていることに気づいていなかったという。

「警視庁公安部です。君はここに何をしに来たんだ?」

先頭の年配の男が言った。

「待ち合わせがあって……」

水谷がこう言うと、男は鼻で笑った。

「彼はここには来ないよ。もう帰国したんだ。話を聞きたいから一緒に来なさい」