結局、世界を変える通貨は「電子マネー」「仮想通貨」のどっちか

ビットコイン価格が乱高下するなかで
野口 悠紀雄 プロフィール

中国でアリペイが爆発的に広がる理由

中国には、上記3つの条件を満たし、したがってマイクロペイメントを可能とする手段が、爆発的に広がっている。アリババ・グループの子会社アント・フィナンシャルが運営する「アリペイ」という電子マネーがそれだ。

携帯電話の番号がアリペイの口座番号代わりになっているので、相手の携帯電話の番号さえ分かれば、簡単に送金できる。

……ほとんどゼロのコストで送金できる。誰でも、どんな店舗でも、投資や特別な審査なしに利用できる。

アリペイは仮想通貨ではないので、口座を開き、銀行口座からアリペイの口座に現金を入金しておく必要がある。ただし、銀行口座からアリペイの口座に現金を移動させる際に、手数料はかからない。また、銀行口座から現金として引き出す際にも手数料はかからない。こうして、ほとんどゼロのコストで送金できる。

上で述べたように、マイクロペイメントができるためには、多数の利用者が存在すること必要である。アリペイの場合、国内利用者が推定約8億人(常用者が約5億人)といわれるので、十分な規模だ。

アリペイを用いた20~30代の中国人の間で、タオバオ(アリババが運営するショッピングのWebサイト)への出店ブームが起きていると言われる。

中国にはさらに、大手IT企業テンセントが作った「ウィーチャット」という電子マネーがある。アリペイと合わせると、利用者は10億人をかなり超えると見られる。

電子マネーの分野で、今や中国は世界の最先端にあると言うことができる。

中国でこのようなサービスが進展した大きな理由は、クレジットカードのシステムが確立されていなかったことだ。つまり、「リープフロッグ」現象(技術的に後れた段階にあった国や社会が、ある段階を飛び越えて、先に進化すること)が起きているわけである。

日本の店舗でも、登録すれば、アリペイを受け取ることができる。実際、来日中国人客のために日本でも導入する店舗が増えている。

しかし、日本人が送金するには、事前に登録した中国国内の銀行口座に入金しておく必要がある。これはかなり厄介で、ハードルが高い。だから、現在、日本人がアリペイで送金するのは難しい。

ただし、アリペイは、各国の企業と提携して、現在34か国に進出している。国外の利用者は約2.5億人といわれる。将来日本に進出する計画も持っているようだ。

なお、アリペイは、仮想通貨のように転々流通するものではない。しかも、銀行システムを使っている。こうした点で、技術的に見れば、あまり革命的なものとは言えない。

 

スウェーデンでもキャッシュレス化が進展

スウェーデンでも、キャッシュレス化が進んでおり、現金使用率はわずか2%と言われる。

銀行店舗の大部分では、現金を取扱っていない。路上で雑誌を売っているホームレスや露店でさえ、「現金はお断り」だと言われる。

ここでは、「Swish」というシステムが使われている。これは、スウェーデンの6つの銀行が共同開発した決済システムで、金額と送金先の電話番号を入力するだけで送金ができ、買い物や飲食などの支払いができる。2012年のサービス開始から5年たったいま、国民の半数以上が利用している。この基礎は、出生時に割り振られる個人識別番号と名前と電子証明書とを統合したBank IDと呼ばれる番号だ。

この仕組みも、前期の3つの条件を満たしており、したがって、マイクロペイメントを可能とするものだ。

エストニアでもキャッシュレス経済が進行している。

アメリカでは、paypalが使われている。ただし、あらゆる人が使っているというわけではない。

日本にも、電子マネーはある。ただし、日本の電子マネーは、セブンアンドホールディングスの「nanaco」、イオングループの「WAON」、楽天の「楽天Edy」、JR東日本の「Suica」に代表される交通機関カード、LINEの「LINE Payカード」、auの「auWALLET」など、大手流通会社やIT会社、交通会社が発行するものが主だ。

これらは、発行会社やグループの店舗でしか使えない支払い手段だ。そして、特定の店で使えば、クレジットカードよりもポイント還元率を高くしている場合が多い。つまり、客を囲い込むための手段だ。誰にでも送金できる一般的な通貨ではない。

したがって、これらは電子マネーではあっても、マイクロペイメントを実現する手段とはなりえない。この点でみれば、財布携帯の時代よりも後退してしまったと言わざるをえない。

日本のキャッシュレス化率が約18%ときわめて低いことは、しばしば指摘される。政府は14年6月に閣議決定した「日本再興戦略」で、「2020年に向けたキャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性向上」を掲げている。しかし、普及率の前に、一般的な支払いに使えないことが問題なのだ