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ウイスキー歴20年でも、ブラインドテイスティングはさっぱりです

タリスカー・ゴールデンアワー第9回(後編)

奥野: 以前ちょっと、わたしのシングルモルト仲間の間で流行ったのが、ジョニーウォーカーの黒ラベルのハイボールを作って、その上からタリスカー10年を振りかけるやつです。これは古屋三敏さんの漫画『レモン・ハート』で出てくる飲み方で、私もバー「レモンハート」で初めて飲んだのですが、結構イケますよ。

シマジ: ボブ、タリスカーはジョニ黒のキーモルトでしたっけ?

ボブ: キーではないですけど、むかしはけっこう使われていたようです。いまはどういうモルトがどういう割合でブレンドされているのかは、「企業秘密」です。

立木: ついに出た! ボブの企業秘密。

ボブ: 奥野宮司にお訊きしてもいいですか?

奥野: なんなりとどうぞ。わたしには企業秘密はございませんから。

ボブ: 頼もしいです。仏教の寺院はスコットランドでもアメリカでもみかけますが、どうして神社は日本だけなんでしょう。

奥野: 神道という宗教はやっぱり、日本の風土と密着しているんです。仏教、キリスト教、イスラム教は「創唱宗教」と言いまして、教祖がいてそこから布教がはじまった宗教ですが、神道は「自然宗教」です。日本の自然環境と密接に結びついていますので、風土がちがうところに行ってしまうと、ちょっと違和感があるんです。

シマジ: 仏教のお坊さんには位がありますが、宮司にも位のようなものはあるんでしょうか。

奥野: 階位はありますよ。上から浄階、明階、正階、権正階、直階とありまして、直階は高校を卒業後に1ヵ月くらいの講習と研修を受ければ取得出来ます。また階位とは別に級がありまして、上から、特級、一級、二級上、二級、三級となっています。

シマジ: 失礼ですが、奥野さんはどの階で何級なんですか?

奥野: 不肖奥野は明階、二級の神職でございます。

ヒノ: 奥野さんはかなり偉い方なんですね。

奥野: いえいえ、たいしたことはありません。

シマジ: キリスト教でいちばん偉いのはローマ法王ですが、神道ではどなたなんですか?

奥野: それは天皇陛下が神道の祭祀王です。むかしは11月23日の新嘗祭で天皇陛下が神さまに新米を献上してからでないと、誰もお米を食べてはいけなかったんですよ。それで、その新米を発酵させてどぶろくを造り、収穫感謝のお祭りに御神酒としてお供えしたのです。近代になって酒税法が出来る前までの話ですが。

ボブ: そうだったんですか。ヨーロッパでもキリスト教と一緒に蒸留技術がいろんなところに普及したようです。ですからウイスキーにもやっぱり神さまが宿っています。

奥野: スピリッツといいますしね。

シマジ: 一年のうちで奥野さんがいちばん忙しいのはいつごろなんですか?

奥野: それはやっぱり、お正月ですね。初詣もありますし、それからお祓いも大忙しです。数えで厄年に当たる人は、年の初めにお祓いを受けて、どうか今年もいい一年でありますように、とお祈りするんです。

ボブ: たしか節分までにお祓いをしてもらったほうがいいんですよね。

奥野: ボブさん、よく御存じですね。

ボブ: じつはぼくももう少しで厄年なんですよ。

シマジ: ボブ、それなら奥野宮司にお祓いしてもらったらいいんじゃないですか。これもなにかのご縁ですよ。しかも奥野宮司はディアジオのシングルモルトが大好きときている。願ってもないことです。

ボブ: そうですね。ちょうどぼくのむかしのホストファミリーが大泉学園に住んでいて、そこから近いですし。

奥野: ボブさんのお祓いなら、喜んでさせていただきます。

シマジ: たとえばボブがお祓いをしていただくときには、祈祷料はいかほど包めばいいんですか?

立木: シマジ、世の中には訊いてもいいことと訊くべきじゃないことがあるんじゃないのか。

奥野: いえいえ、構いません。初穂料というのは、お祓いをする神主の手間賃や手数料ではなくて、神さまにお祈りするときに添えて納めるお気持ちです。まあ、500円というような方はおりませんが、うちの神社の場合は一応、5千円という基準を設けています。人のお気持ちはいろいろですから、1万円という方もいますし、5万円という方もいらっしゃいます。

シマジ: いわゆる身の丈にあった金額でいいんですね。ボブ、よかったじゃない。

ボブ: はい、安心しました。では、そのときはぼくの気持ちの祈祷料をお持ちします。それと、奥野宮司がお好きなクライヌリッシュを一本お持ちいたしますね。

奥野: いつでもお待ちしております(笑)。

〈了〉

奥野雅司(おくの・まさし)
1965年、東京都生まれ。國學院大學卒業。同大学院神道学専攻修士課程修了後、石神井氷川神社禰宜に就任。平成19年、同神社宮司に就任。趣味は能楽と刀剣鑑賞。最近は酒類醸造と宗教文化の関わりに興味をもっている。
島地勝彦(しまじ・かつひこ)
1941年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。柴田錬三郎、今東光、開高健などの人生相談を担当し、週刊プレイボーイを100万部雑誌に育て上げた名物編集長として知られる。現在はコラムニスト兼バーマンとして活躍中。 『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ』(いずれも講談社)、『バーカウンターは人生の勉強机である』『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』(CCCメディアハウス)、『お洒落極道』(小学館)など著書多数。
ロバート・ストックウェル(通称ボブ)
MHDシングルモルト アンバサダー/ウイスキー文化研究所認定ウィスキーエキスパート。約10年間にわたりディアジオ社、グレンモーレンジィ社、他社にて、醸造から蒸留、熟成、比較テイスティングなど、シングルモルトの製法の全てを取得したスペシャリスト。4ヵ所のモルトウイスキー蒸留所で働いた経験を活かし、日本全国でシングルモルトの魅力を面白く、分かりやすく解説するセミナーを実施して活躍しています。