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人工知能の進化についての「紋切り型」は誰が作ったのか

「AI社会」をめぐる4つの考察(前編)

⒈ 人工知能にまつわる物語

人工知能を搭載したロボットが、人間に代わってあらゆる仕事を行う時代を想像すると、一つの不吉な疑問が浮上する。

そのような社会で、我々は朝目覚めてから夜寝るまで、いったい何をして過ごすのだろうか?

そんな疑問を抱いたのは、先日、アメリカの首都に本拠地を置く研究機関の呼びかけに応じて、国際会議の一種に参加した時だ。

国籍が異なる25人の男女が一都市に集まり、ホテルの会議室の円卓を囲んで着席する。25人は、普段は官僚、経営者、大学教授、医師、技術者などとして、それぞれ異なる分野の仕事に従事するが、筆者を含め、誰一人として人工知能の専門家ではなく、また、経済学や雇用政策に精通している者もいない。それなのに、4日間にわたる会議で熱心に論じられたのは、人工知能の進化と労働の未来、というテーマだったからだ。

 

その道の専門家が、日々切迫した論を交わしているに違いない問題について、いささかの専門知識も持たない25人が、唐突に会議を催してみたところで、画期的なアイディアが生まれるはずもない。だが、そのような成果物は決して期待されていないのだと、アメリカの研究機関は言い張る。

そうではなく、近い将来、人類が間違いなく対面する複雑な問題について、一定の選考過程を経た男女が、真剣に議論する行為そのものに、多大な価値があるのだと言う。そんな途方もない楽天主義を実践する団体に、無償の資金供給が継続されるアメリカという国の、底抜けの明るさを再確認しつつ、筆者はプログラムに臨んだ。

だが会議が始まると、即座に、一種の薄気味悪さが部屋に充満した。国籍も職種も異なり、その日まで顔も合わせたことのない25人の男女が、まるで予め示し合わせていたかのように、一遍の同じ物語を、いっせいに語り始めたからだ。

物語は、概ね次のような筋書きを辿る。

人工知能の加速的な進化に伴い、今後あらゆる職業はロボットによって代替される。代替の過程については、何年までにどの職業が消えてなくなるという年表さえ用意されるだろう。そして、ついに人間の知能を超越するロボットが出現し、我々は、自らが創造した人工知能に運命を委ねることになる。

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25人の男女は、この物語に賛成したり、反対したり、あるいはその細部を論じたりする(「人工知能がベストセラー小説を書けるようになるのは、今から30年後か、それとも60年後か?」)が、人工知能の進化と労働の未来という、本来はその輪郭さえ定まっていないはずの広汎なテーマについて、まったく別の物語を喋り始める者は誰一人としていない。

結果、筆者を含むすべての参加者の発言は、どこか聞き覚えのある言葉を並べただけの、紋切り型の物語に集約されてしまうのだ。

顔も合わせたことのない25人の男女が、おそらく個々の意思に反して、口を開くたびに互いの発言の模範と反復を演じ、ごく退屈な同一性のうちに収まってしまうのはなぜか?

筆者を含む全員が、繰り返しなぞることを辞めようとしない一遍の物語は、いったい誰の手によって捏造され、いかにして社会に流通したのだろうか?