小沢健二が姿を消した「19年間の空白」を解き明かす

稀代のトリックスターの思索と実践の旅
現代ビジネス編集部 プロフィール

――『アイスクリームが溶けてしまう前に』という絵本は、宇野さんとしては、どのように捉えていますか?

「素晴らしい本だと思いました。ただ、きっと十何年か経った時に『パパが作った本だよ』って自分の息子たちに見せるような、プライベートな動機に基づいているんじゃないかと思わせる本でもあった。

シングルとしてもリリースされた『フクロウの声が聞こえる』にも顕著ですが、2016年の『魔法的』ツアーで初披露した曲の多くも、子どもとの関係性が新しい大きなテーマとなっている。

子どもができたことはものすごく彼にとって大きいことで、そのことによって表現をアウトプットする力が強くなって、加速してるのは間違いないと思います」

――『ひふみよ』『東京の街が奏でる』は、かつて発表した曲が中心のコンサートでしたけれど、『魔法的』以降は新曲を創作するモチベーションが彼を動かしている。そこはかなり大きな違いですよね。

加えて、宇野さんが仰ったように、家族や子どもというモチーフによって彼の表現がアップデートされた。そういうクリエイティブの変化についてはどうでしょうか。

「基本的に歌ってることは変わってないけれど、それが大きくアップデートされましたよね。特に言葉や歌詞に重きがあるアーティストにとっては、年齢と共にそれをどう変化させていくかというのはすごく難しい。

そういう意味で小沢健二は19年間の空白――『Eclectic』と『毎日の環境学』とその後にライブだけで披露された曲はちょっと異質な作品だからあえて『19年間の空白』と言いますけれど――を経たことで見事にそれを乗り越えましたよね。同じことを歌ってるんだけど、明らかに強度とアクチュアリティが増している。

40歳を過ぎて家族がいても、ファンのニーズに応えて思春期のようなラブソングを作り続けている表現者もいますが、そしてそれがダメなことだとも思いませんが、彼は今も自分のリアルな実感だけを歌にしている」

 

「共働」というキーワード

――来年には小沢健二と親交の深い岡崎京子の原作『リバーズ・エッジ』の映画が公開されます。そこで、彼が主題歌として新曲「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」を書き下ろしたことも発表されました。それも含めて、今後の小沢健二の展開はどうなっていくと考えていますか?

「『フクロウの声が聞こえる』の歌詞にある『共働』という言葉がキーワードになっていくと思います。

彼はこの春、フジテレビの『Love music』に出演したときに、ceroに『なんで復活することにしたのか?』って訊かれて、『それはceroみたいな人たちが出てきたからだ』って答えているんです。

あれは社交辞令でもなんでもなく本当のことで。ceroだけでなく、彼が今の日本の音楽シーンにおいて、新しい作品を同じ空気の中で生み出す意義みたいなものを感じたから日本に戻ってきたんじゃないかって思うんですよね。

そのひとつが、実は人知れずニューヨークでも交流していたSEKAI NO OWARIとのコラボであり、銀杏BOYZの峯田(和伸)くんと一緒にやった下北沢のゲリラ・ライブであり、来年の『リバーズ・エッジ』の主題歌なんだと思います。

独立した表現者同士が、一緒に何かを作ることで、新しい価値がそこに生まれる。今、彼が一番興味があるのはそういうことだと思います。

当然、来年には『流動体について』以降の今の流れがアルバムという形でまとまることも期待していますが、昔から次に何をするのかまったく予測ができない人なので(笑)。

彼のようなトリックスター的な存在が今の日本の音楽シーンにいることは、若い世代の表現者にとってもいい刺激になるんじゃないでしょうか」