「遺伝か環境か」不毛な議論に終止符〜なぜその努力は報われないのか

よくある4つの誤解を解く
安藤 寿康 プロフィール

無知や不可知ではいられない時代

環境の違いというより年齢の違いが、収入に及ぼす遺伝の影響の大きさを変えるというこわい研究結果もある。

20歳から50歳までの1000組をこす日本の双生児の男性の収入に及ぼす遺伝と環境の影響の変化を見ると、大学卒業したてのころは共有環境の影響が大きな個人差要因だが、その影響は年齢とともに減少し、変わって遺伝要因が増加して45歳あたりのまさに働き盛りのころに最大になる。

はじめは縁故に恵まれているか、親の意向がどうかといった家庭にまつわる環境要因が収入の差の主たる原因だが、やがて本人のもって生まれた実力が稼げるか稼げないかの差となってあらわれることを示唆するこの結果は恐ろしいが、的を射ているように思われる。

だからこそ遺伝的素質を無視した働き方の選択や職場環境の作り方には警鐘を鳴らしたいのだ(最近の「働き方改革」もその恩恵の有無は人それぞれだろう)。

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私の博士論文も遺伝と環境の交互作用を実証する教育実験だった。小学生の一卵性のきょうだいを別々のクラスに分け、英語を会話中心式と文法訳読式で、それぞれ別々に教えた。

すると遺伝的に社交的なペアでは会話中心式のほうが英語によるコミュニケーションの意欲が高いが、遺伝的に内向的なペアだと文法訳読式のほうがコミュニケーション意欲が高かった。

遺伝的に知能の高い一卵性のペアでは文法訳読式で教わった方が文法力がつくが、遺伝的に知能の低い方のペアでは両者の教授法の差はほとんどないという交互作用も見られた。

 

こうしたことから、押しなべて環境が大事、環境で何とかなると妄信するのではなく、遺伝をふまえた環境、環境にあった遺伝を考える必要性が見えてくる。

だからよくある反論3にある「遺伝のことを知ろうが知るまいがやることは同じだ」という無知主義や「遺伝だけについて知ることはできない」という不可知論は、適切ではないといえるだろう。

いまや遺伝子検査が流行するようになり、その妥当性はともかく、「私の遺伝子」の情報が手軽に手に入るようになった。無知や不可知ではいられないのだ。

それでも「だれがなんといおうと遺伝は関係ない。環境が大事だと信ずる」という環境教の信者は遺伝的に一定数出てくるだろう。信教の自由を侵すつもりはない。私も科学教の信者だからだ。