トヨタ「前代未聞の役員人事」全舞台裏

69歳の相談役が副社長に就任
井上 久男 プロフィール

元上司、元部下、元秘書

トヨタ元役員は言う。

「これは『小林政権』の樹立です。豊田社長を『天皇』にたとえるならば、小林君は『摂政』に就いたということ。少なくとも社長代行であることは間違いない」

さらに、小林氏はCROに就いたことで、カネの流れだけではなく、リスク管理の名目であらゆる事業に関与できる権力も得る。「小林さんは実質的に社長代行をしながら、豊田社長の後継者を育成する密命も帯びている」と語るトヨタ幹部もいるほどだ。

もちろん、これほどまでに小林氏が豊田社長の信頼を得たのには理由がある。小林氏は豊田社長が役員になる前、財務部と国内営業に在籍していた際に2度上司を務めた。そこで公私にわたって面倒を見て、創業家の御曹司として特別扱いしなかったことが豊田氏の琴線に触れたとされる。

小林氏は豊田氏の8歳年上で、きっといい兄貴分だったのだろう。小林氏も筆者に、「一緒によく遊んだもんです」と語ったことがある。トヨタ元幹部も指摘する。

「章男社長は豊田家本家の嫡流ですが、グループ会社には豊田家分家出身の役員がいます。親戚同士でモノが言いにくいことを小林氏は察して、分家の役員にずばりと意見が言えることでも章男社長の評価が高い」

 

そんな小林氏はグループ企業再編論者。これまでトヨタのグループ企業は大きな再編をせずとも生き残れたが、いまや世界は合併・買収によって巨大な部品メーカー(メガサプライヤー)が誕生する時代。

トヨタでもそのメガサプライヤーの脅威に対抗すべく、すでに複数の企業にまたがった事業を集約する動きが出ているが、その動きを黒子として主導してきたのが小林氏だ。

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トヨタ系列では豊田合成やトヨタ紡織など内装部品を作る上場企業にも重複分野があり、トヨタ本体がその再編を仕掛けてくる可能性もあるが、その際は小林氏が陣頭指揮を執ることになる。

激動の時代には、小林氏のような「破壊屋」も求められる――。そうした意味でも、トヨタ系列の企業にはすでに「小林ショック」が走っているのだ。

また、今回の人事で専務から同じく副社長に昇格する友山茂樹氏は、豊田社長が役員になる前から部下として仕えてきた「股肱の臣」。

CV統括部長から常務役員に昇格する好田博昭氏は豊田氏の元秘書である。最近のトヨタでは豊田社長の元部下や元秘書が優遇される傾向もまた見て取れる。