東京大学がついに「雇い止め撤回」を決めた、二つの事情

ルール制定の違法性を指摘され…
田中 圭太郎 プロフィール

「東大ルール」は違法だった

ところが、次第に大学の定めたルールの「違法性」が明らかになっていく。「東大ルール」作成や変更の際に、労働基準法にのっとった手続きがなされていないことがはっきりしたのだ。

労働基準法の第90条第1項は、次のように定めている。

「使用者は、就業規則の作成又は変更において、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表するものの意見を聞かなければならない」

だが、東大は就業規則の作成や変更をする際に、この法律に基づかずに進めて、「東大ルール」を作ったのだという。

ごく簡潔にいえば、東京大学の教職員組合は、労働者の過半数で組織されていない。そのため、新たなルールを大学側が制定するには、まず「代表者選挙を実施して、労働者の過半数から代表者を選出」し、その代表者らと話をしなければならないはずだった。しかし、東大ルールを制定する際に、非常勤講師を排除するなどしてこの手続きが正しくとられていなかったという。教職員側はこれをもって、「ルール制定は明らかに違法であり、有効ではない」と主張をしてきた。

実は、東京大学と同じ労働基準法違反の疑いによって、労働基準監督署から是正勧告と指導を受けた国立大学法人がある。一橋大学だ。

 

一橋大学は、法人化以降、独自のルールを作る際、過半数代表者を選ぶ際に、非常勤職員を除外していたという。

これを問題視した中央労働基準監督署と立川労働基準監督署は、2013年3月、一橋大学に対して労働基準法違反の疑いで「臨検監督」といわれる調査を実施。法人化後の労働協定の締結や就業規則の決め方が違法だったことを認め、是正勧告と指導をした。その結果、2012年に一方的に実施された賃金の引き下げや、休日時間外労働協定の36(サブロク)協定が無効になった。

東京大学も、一橋大学のケースとほぼ同様に「東大ルール」を作ったため、そのプロセス自体が労働基準法違反である疑いが濃厚であった。この違法性が認められれば、これまでに改正・締結してきた就業規則や36協定が無効になってしまう。教職員側が労基署にこれを訴えれば、一橋大学と同じく、東大も調査を受ける可能性があったという。

女性差別とみなされる可能性もあった

東京大学の雇い止めには、他にも問題があった。それは「女性への差別」だ。

東大のパート教職員のうち、8割が女性で占められており、彼女たちの「無期雇用への転換」を認めない場合、女性の雇用を軽視している、と国際社会から非難を受ける可能性が指摘されていた。

近年、東京大学は世界の大学格付けランキングにおける順位が低下している。イギリスの教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が発表した2017年の世界大学ランキングでは、東京大学は前年の39位から順位を下げて、過去最低の46位となった。

東京大学の格付けが低下傾向にある理由として、海外の大学に比べて女性の教員が少ないことなどが指摘されているという。ただでさえ女性差別が指摘されている中で、女性が8割を占めるパート教職員を雇い止めにすれば、さらに評価を下げることは間違いないだろう、と言われていた。

実際、11月9日に開かれた団体交渉で、組合側は女性差別の疑いがあると強く主張し、労務担当の理事に「東大を貶めて、あなたは責任がとれるのか」と迫った。これを受けた理事は黙り込んでしまったという。

組合側は、大学がこのまま方針を変えなければ、労働委員会に不当労働行為救済の申し立てを行うとともに、労働基準法違反で労働基準監督署に刑事告訴と刑事告発をする考えを伝えていた。