「愛しき好漢たち」を活写した決定版『水滸伝』の魅力

盛り場で語り継がれた物語
井波 律子 プロフィール

好漢のなかには、先述した魯智深らのほかにも、当たるを幸いなぎ倒す魔物のような李逵、二本刀を操る美しき女将扈三娘、石つぶての名手の張清等々、頗る付きの剛の者や、魔法使いの公孫勝、快足で情報伝達に無類の威力を発揮する戴宗、粋な色男だが李逵すら恐れ入らせる相撲の名手燕青、コソ泥上りで忍びの名人時遷、自在に水中を動きまわる泳ぎの達人張順など、ユニークな特技の持ち主が続々と登場する。

 

『水滸伝』世界は、こうして名前を記すだけで気分が高揚するような、とびきりの好漢にあふれており、彼らが梁山泊軍団のそれぞれの持ち場において、反逆のエネルギーを思い切り燃焼させる姿を見るとき、胸躍る共感を覚えずにはいられない。

翻訳にあたり、躍動的な語りのリズムに乗せて、「愛しき好漢たち」の勢いあふれる姿が浮き彫りにされるよう努めた。彼らと共生しながら翻訳に没頭した日々は、まことに楽しく心躍るものだった。盛り場育ちの『水滸伝』に脈打つダイナミズムと無類の面白さを、堪能していただければと願うばかりだ。

読書人の雑誌「本」2017年12月号より