愛人、横領、収賄問題を乗り越えた「少林寺最強住職」ミラクル伝説

武器は筋力と「金力」だ!

政治和尚、大ピンチ!

カンフー映画でも有名な嵩山少林寺の名は日本でもよく知られている。河南省開封市にあるこの古寺は、北魏の太和十九年(495年)に開山したという中国曹洞宗の名刹だ。ちなみに余談ながら、この嵩山少林寺に伝わっている武僧の武術は、日本の少林寺拳法と直接の関係はない。

さておきこの嵩山少林寺。中国歴代王朝における相次ぐ戦乱に加えて、文化大革命期にも仏像や伽藍が破壊されて僧侶が還俗を余儀なくされるといった苦難の歴史を味わってきたが、1980年代からは少林寺武僧団の巡業公演を実施するなどして商業化に成功する。

1990年代末には寺の傘下に少林寺実業発展有限公司ほか複数の企業を作り、映画事業にも進出。中国の宗教界としては破格に早期の1996年に公式ホームページを開設するなどIT化への対応も進めた。

いまや少林寺は海外公演に忙しく、2006年に訪中したプーチン大統領に演武を見せるなど中国の顔である。近年は子ども向けのサッカー教室(少林サッカー)事業なども展開するほか、オーストラリアに分寺を建立したりもしている。

これら一連の少林寺ビジネスを推進してきたのが、嵩山少林寺四十七世住職の釈永信和尚(52、皖潁上人)である。彼は少林寺の先代住職が遷化した1987年に山内の実権を事実上掌握し、少林寺武僧団の団長に就任。やがて数多くの少林寺ビジネスを成功に導き、1999年には少林寺史上最年少の住職に就任した。

「カンフー・ビジネス」という見出しとともに、意識の高い雑誌のカバーを飾る永信和尚。「少林寺CEO」の面目躍如だ。

彼は中国の僧侶としては初だという経営学修士(MBA)も取得したとされる。ゆえに現地メディアでは「少林寺CEO」「ビジネス和尚」「経済和尚」「MBA方丈」といった、中国有数の禅の古刹の住職らしからぬ異名も多数囁かれている。

現代中国で成功するからには政治とのコネクションも欠かせない。永信和尚は少林寺住職就任の前年に第9回全人代代表(日本の衆議院議員に相当)に選出され、その後も現在まで議員を務めているほか、やがて中国仏教協会の副会長にも就任。ほか、地元の河南省の宗教行政をはじめとした要職をいくつか占めており、「政治和尚」とのあだ名もある。

もっとも、この永信和尚。伝統ある宗教施設の商業化推進に対する世論の反発に加えて、ストイックな青年禅僧を多数抱える少林寺武僧団の元締めとは思えないほどプックリした体型や精力的すぎる人相も災いしてか、世間のバッシングを浴びることが少なくない。MBAを取得したとされる教育機関がどこなのかいまだに不明だったりと、怪しい話も聞かれる。

そんな永信和尚が最大の危機にさらされたのが2015年7月だ。弟子の「釈正義」を名乗る人物が和尚を「大老虎」(習近平政権下での汚職官僚に対するあだ名)と呼び、えげつない内部告発をネット上で暴露したのである。