Photo by GettyImages

がん・脳梗塞・心筋梗塞になった時に 「助かりやすい町」

医療にも地域格差があった

病院の受け入れ態勢が違う

「戦後の日本には若い世代が多く、住んでいる場所による健康状態の格差が露呈することはほとんどありませんでした。

しかし、高齢化が進んだいま、自治体が日頃からどれだけ住民の健康づくりや病気の予防に取り組んでいるか、どれほど病院の連携体制の整備に積極的かといった要因が、もろに自治体間の『健康格差』として表れる時代になってきたということでしょう」

そう語るのは、『未来の年表』の著者で、人口動態や地域格差の問題に詳しい産経新聞社論説委員の河合雅司氏である。

ページ末の表をご覧いただきたい。これは、「全国の主要都市において、がん、心疾患、脳血管疾患で死んでいる人の数が、全国平均と比べてどれくらい多いか(少ないか)」をランキング化したものである(高齢化や人口の影響は除いてある。20万人以上の市を抽出)。

つまり、その町に暮らす住民が、それぞれの病気について「助かりやすい」のか「手遅れになりやすい」のかが示されているということだ。

たとえば、男性のがんに関していえば、松本市や浜松市、長野市は、全国平均に比べて死亡率が圧倒的に低い。一方、青森市や尼崎市、大阪市などでは、がんで死ぬ男性がきわめて多い。

 

こうした「格差」の根底には、もちろん住民の所得や、地域ごとの食文化、運動習慣といった「生活習慣」がある。しかし、河合氏も指摘する通り、受け入れ態勢の整った病院の有無、各自治体の健康問題への取り組み方や姿勢が、格差を生んでいる側面もある。

「たとえば、脳血管疾患で死ぬ人が少ない吹田市や高槻市、豊中市を考えてみてください。

吹田市には、国立循環器病研究センターがあり、小中学生の段階から、高血圧についてマンガ冊子を配布したり、アニメをつくったりといった啓発活動を積極的に行っています。

もちろん、急な発作が起きたとき対応してくれる病院が近くにあるという意味でも死亡率の抑制に貢献しているとは思います。しかし、実際に病気が発症するか否かというその『過程』にも、自治体や病院の取り組みが大きく関わっているのです」(前出・河合氏)

男女ともに心疾患が少ない福岡市では、給食施設の研究会で講座が開かれるなど、減塩への取り組みが盛んに行われている。

今年3月には、オンライン診療を進めるなどの政策パッケージ「福岡市健康先進都市戦略」を打ち出し、「人生100年時代」に備えている。

医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏によれば、自治体や地元病院の取り組みに大きな影響を与えているのが、「国立大学の医学部」の存在だ。上氏が言う。

「たとえば、和歌山市は男性のがんや、男性、女性の心疾患で下位(=手遅れになりやすい)になっていますが、ここには和歌山県立医科大学しかありません。

福島県の福島市やいわき市も、心疾患や脳血管疾患で下位に入っていますが、県内には国立大医学部はなく、福島県立医科大学しかありません。盛岡市が下位に出てくる岩手県も同様。

それだけ国立大の医学部の影響は大きいということ。国立大医学部を出た学生が医師になり、地元に定着し、腕のいい先生として活躍する。結果、地域全体として医療に対する意識が高くなり、重病で亡くなる人の数が減るのです」

こうした「医療文化」が発達している地域では、もし病気になったとしても、病院に行きやすかったり、病院同士の連携が緊密だったりするため、命が助かりやすい。

「その好例が長野県です」と言うのは、国立がん研究センターがん対策情報センター所属で、『がんで死ぬ県、死なない県』の著者である松田智大氏だ。松田氏が続ける。

「長野県は、がんの『罹患率』は、それほど低いわけではありません。しかし、がんによる死亡率が非常に低いのです(松本市や長野市を参照)。

明確なデータがあるわけではありませんが、長野県は医療機関と住民との心理的な距離が近い雰囲気があるためではないかと考えられます。

もともと長野県は脳卒中が多い地域として知られており、昭和20年代から地域の健康づくりをサポートする『保健補導員制度』が導入されています。

そうした動きのおかげで、住民と医療機関の距離が縮まり、男女ともに平均寿命が一番長くなったり、がんの死亡率が低くなったりといったポジティブな結果が出ているのではないでしょうか」