国家予算500億円を投じた「全国学力調査」が有害無益な理由

こんなことを10年もやってきたのか…
大前 治 プロフィール

小学6年生の「50+150×2」の正答率が、2010年度は63.3%、2013年度は66.7%、2016年度は65.1%であった。

それを分析した結果、「加法と乗法の混合した整数の計算をすることに依然として課題がある」というのが結論である(国立教育政策研究所・平成28年度調査)。

そんなことは分析するまでもなく現場の教師は実感している。工夫と苦労を毎日重ねているのだ。「依然として課題がある」と言われても何の解決にもならない。むしろ、正答率が容易には上昇しないところから現場の苦労を理解するべきである。

これを「分析」と呼べるのか。毎年50億円を投じる意味は感じられない。教師の増員、少人数学級の推進、老朽校舎の改築など、本当に必要なところに予算を回すべきである。

 

全生徒を対象にする必要があるのか

そもそも、小6と中3の全生徒200万人を対象とした大掛かりな調査が本当に必要だろうか。

文部科学省が掲げる調査実施の目的に照らして考えてみよう。

*全国学力調査の目的(文部科学省)
・全国的な学力状況を把握し、教育施策の成果と課題を検証する
・学校での教育指導の充実や学習状況の改善に役立てる
・教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する

要するに、この学力調査は一人ひとりの弱点・つまずきを理解して個別指導に役立てるのが目的ではない。全国の平均値や得点分布を把握して「教育施策」に役立てるのが主目的である。それなら全生徒を対象にする必要はない。

2010~2012年度は対象を約30%に絞った抽出調査となった。実施方法が異なり単純比較はできないが、委託料は2011年度が合計16億6千万円、2012年度は合計31億7千万円にとどまった(※2011年度は予算決定後に東日本大震災のため実施中止、2012年度は抽出校のほか希望校も調査を受けた)。

ところが、対象を全生徒に戻した2013年度は委託料が合計48億5千万円へと高騰した。その後も年40億円前後で推移している。抽出調査に戻すだけで10億円は節約できるはずである。

現在も、数年間の学力調査結果の推移に基づく「経年変化分析調査」は、小学校の2.1%、中学校の4.9%を抽出して実施されている(2016年度の場合)。それだけで有用な統計結果を得られることを、文部科学省が自ら示しているのである。

日々の教育実践に直結しない調査

教育は文部科学省の会議室で行われているのではない。現場で行われているのだ。

現場では、各生徒の前年までの成績結果、他の教科の理解度、集中力、興味関心にも配慮し(ときには悩みや不安にも寄り添い)、生徒の反応をみながら授業を進める。そこに必要なのは全国平均のデータではない。

調査の実施方法も、子どものやる気や達成感を刺激するものとなっていない。年度により科目や時間配分が異なるが、2015年度は次のように実施された。

*小学6年対象の調査 (2015年4月21日)
1限目 国語A(20分)・算数A(20分)
2限目 国語B(40分)
3限目 算数B(40分)
4限目 理科(40分)
その後 生活習慣などの質問に回答(20分)
(Aは基礎知識の問題、Bは知識を活用する問題)

多くの小学6年生にとって、午前中の4コマ全部がテストというのは未経験であり苦行である。集中力の維持も難しい。

「難しかった」「全然できなかった」と落ち込む生徒も多いという。問題を解けた喜び、一緒に学んだことを確認できた喜びは、この学力調査では芽生えにくい。