日本人の「タミフル信仰」がいまだ根強いワケ

インフル流行期に知っておきたいこと
原田 隆之 プロフィール

そもそも効果があるのか?

ところで、タミフルにはそもそも効果があるのだろうか。これについても、慎重なエビデンスの検討が必要である。

副作用の場合と同じで、効果についても、タミフルを飲んでインフルエンザが治ったとしても、この両者の間に因果関係があるのかどうかは慎重に検討しないとわからないからだ。

医療行為の効果について、最も信頼できるエビデンスを提供しているのが、イギリスに本拠地のあるコクラン共同計画という国際組織である。コクランは2014年に、タミフルとリレンザの効果について、論文を発表している。

コクランの論文は、過去に発表されたあらゆる関連論文をデータベースで検索し、その質を厳密な方法でふるいにかけて、質の高いものだけをメタアナリシスと呼ばれる統計手法を用いて方法で書かれたものである。

その結果、タミフルを投与された者は、プラセボ(偽薬)を投与された者に比べて、症状の出ている期間が平均16.8時間短かった。日数で比較すると、7日と6.3日の差だった。リレンザの場合は、0.6日短縮された。

これらは有意な差であったが、それは成人の場合に限ったことで、子どもでは差がなかった。

さらに、入院、合併症(肺炎など)に関する効果については、有意な差が見られなかった。副作用に関しては、タミフルを服用した者のほうが、吐き気や嘔吐のリスクが約5%高く、リレンザでは下痢のリスクが約2%高くなった。

これらをまとめて、論文の結論は、タミフルとリレンザにはインフルエンザの症状が軽減する日数を減らす「小さい効果」があるが、副作用も見られることから、「益と害のバランスを考慮して使用する」ことを推奨している。

 

日本人の「タミフル信仰」

無難な結論と思われるだろうか。

どんな医療行為においても、「益と害」はつきものであり、どちらがより上回っているか、どちらが自分にとってより重要であるかを、患者と医師がそれをよく認識したうえで、意志決定することが重要となる。

タミフルについては、この論文の影響もあって、世界保健機関(WHO)は、その「必須医薬品」リストにおいて、「保健システムに最低限必要な薬」から「補助的な薬」までランクが落としている。

アメリカでは、疾病予防管理センター(CDC)が一般向けに配布しているインフルエンザのパンフレットには、高齢者、若年者、その他慢性疾患がある人々など合併症や重症化の「高リスク」がある人々を除いて、抗インフルエンザウィルス薬は必要ないと明記されている。そして、ワクチンによる予防のほうが強く推奨されている。

わが国の国立感染症センターも、予防を強調するとともに、治療については医療機関の受診、安静・休養を勧めており、重症化のリスクがある者を除いて、抗インフルエンザウィルス薬を推奨しているわけではない。いずれにしろ、医療機関を受診し、医師の診察を受けたうえでの判断が重要ということだ。

にもかかわらず、日本においては一般の人々の間に「タミフル信仰」がいまだ根強く、世界で処方されているタミフルの8割を日本が占めているというデータもある。そのせいか、タミフル服用後の異常行動の報告も、ほとんどが日本の症例である。

半日早く良くなることと、吐き気のリスクが5%高くなることのどちらを選ぶか。それは個人の価値観やライフスタイルなどによって異なってくるが、日本ではリスクを避けたい人よりも、「半日でも早く良くなりたい」人が圧倒的に多いのだろう。

日本でのタミフル人気の裏には、「病気でも休めない」という日本の文化的・社会的背景が色濃く影響しているように思えてくる。

つまり、タミフルは「子どもが急に走り出す怖い薬」というよりは、「大人が半日でも早く走り出せるようにする薬」というほうが、日本の状況においてはより正しい姿であると言えるかもしれない。