日本人の「タミフル信仰」がいまだ根強いワケ

インフル流行期に知っておきたいこと
原田 隆之 プロフィール

2015年から16年のインフルエンザ流行期には、インフルエンザに罹患し、薬を服用した者のうち、58件に異常行動が報告された。そして、そのほとんどが未成年であった。内訳は、タミフル15件、リレンザ7件、服用なしが8件だった。

しかし、ここで「やはりタミフルは怖い」などとせっかちな結論に飛びつくことは禁物である。本当に、タミフルに代表されるインフルエンザ治療薬が原因で、異常行動が起こったのだろうか。

 

「副作用」を検証する

実は、医療の世界で「因果関係」を確定するのは、相当に難しい。だからなおさら、直観的な結論に飛びつくのは慎まなければならない。

なぜ、因果関係の推定が困難なのか。それは1つの事象には、数多くの要因が影響しており、それらのうちどれが「真犯人」なのか、あるいは「共犯者」がいるのか、などの特定ができないからである。

子どもの異常行動という事象に対しては、タミフルが「犯人」だと疑われているわけであるが、サスペンスドラマと同じように、犯人は意外なところ、目に見えないところに隠れているかもしれない。

これに関して、よく挙げられる例え話がある。

ある会社で「給料の高さ」という事象に何が関連しているかデータを取ったところ、「血圧」との間の相関が最も高かったという。それを聞いた妻は、せっせと夫に塩分の濃い食事を作り始めた……。

おそらく、このデータは間違っていない。「給料の高さ」と「血圧」には確かに関連がある。

しかし、因果関係はどうだろうか。例え話の中の妻は、因果関係があると思い込んで、せっせと夫の食事を塩辛くして、血圧を上げようともくろんだようである。

しかし、ここで間違ってはならないのは、相関関係と因果関係とは違うということである。ある事象とある要因に関連があるように見えても、それが因果関係かどうかはわからない。

「給料の高さ」と「血圧」に相関関係はあったが、おそらく因果関係はない。血圧が上がっても、給料は上がらない。なぜなら、ここには「年齢」という第3の要因が隠れているからだ。

給料の高さと血圧に一見関連があるように見えたのは、どちらも「年齢」という共通の要因に関連があったからで、おそらくはこれが「真犯人」である。

最近はだいぶ崩れてきたとはいえ、年功序列がいまだ支配的なわが国の会社の給与体系において、年齢が高いことは給与の高さの「原因」の1つである。また、年齢が上がると、生活習慣病のリスクも増え、血圧が高くなる者が多い。

「給料」も「血圧」も、同じ「年齢」という要因と関連が深かったために、この2つに一見因果関係があるように見えてしまったということだ。

このように、目立つ2つの要因に実際は因果関係がないのに、あるように錯覚してしまうことを、「関連性の錯誤」と呼んでいる。その場合、真の関連は、目立たないどこかほかのところにある。