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この20年でフェスはいかにして「国民的娯楽」に変貌したのか

最新エンタメビジネスの本質
いまや一年中開催されるようになった音楽フェス。夏に存分に楽しんだ人もいれば、年末に行く予定の人もいるだろう。
では、夏フェスはいかにして「国民的レジャー」となったのか。なぜビジネスとして成功しているのか。新刊『夏フェス革命ー音楽が変わる、社会が変わるー』より特別公開!

はじけなかった「フェス・バブル」

「CDが売れない」。ここ数年にわたって叫ばれ続けてきたこの問題は、音楽ファンのみならず社会一般に浸透してきたように思える。

日本レコード協会の発表によると、ミリオンセラーが多数生まれた1998年の6075億円をピークに、オーディオレコード(CD、アナログディスク、カセットテープ)の市場規模は大きく縮小。

引き続き魅力的な作品が多数発表されているにもかかわらず、2016年には全盛期の約4分の1となる1777億円まで落ち込んだ(音楽ビデオを加えた音楽ソフト全体でも2457億円)。

AKB48に代表される同一CDの複数枚販売以外にセールスを伸ばす効果的な打ち手は見つかっておらず、基本的にこの傾向は今後も続くと想定される。

また、音楽を聴く手法として世界的に伸長しつつあるサブスクリプション型の音楽配信サービスについても、日本ではまだ市場が立ち上がったばかりでこの先どこまで大きくなるかは未知数である。

パッケージと配信、ともにその未来は不透明であり、「録音された音楽を聴く」という行為を取り巻く環境は非常に混沌としている。

「録音された音楽を聴く」市場に停滞感が漂う一方で、「生の音楽を聴く」市場は非常に元気である。

ライブ・コンサートにおける2016年の市場規模は約3200億円。すでに音楽ソフトと音楽配信を合算した市場規模を凌駕しており、「音楽業界はライブの時代」という認識が通説となりつつある。

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本書(『夏フェス革命』)は、そんな「ライブの時代」において一大産業として定着した感のある「フェス」について取り上げる。

今では様々なライブイベントに(さらには音楽以外のイベントにも)「フェス」という言葉が使われるようになっているが、本書においては「複数のステージが設置され、同時進行で音楽ライブが実施される」「ロックバンドを中心に様々なタイプのアーティストが出演する」「ライブが行われていない時間を楽しむ設備や環境が用意されている」ものを主に取り扱う。

そういったタイプの興行がポップミュージックを取り巻くステークホルダー(リスナー、アーティスト、レコード会社、音楽メディアなど)および社会全体にどんな影響を与えてきたかを考えるとともに、各ステークホルダーの動きや社会のマクロな流れがフェスのあり方をどう規定してきたかという逆方向のベクトルにも目を向ける。

本書で扱うようなフェスの歴史は1997年に初めて開催されたフジロックが起点となっている。

野外で音楽を楽しむイベントはフジロック以前から日本国内でも大小含め複数存在していたが、今現在多くの人たちが認識しているフェスというものの源流がフジロックにあるという考え方は概ね合意を得られると思われる。

フジロックの1回目の開催から約20年が経ち、フェスというものの存在が定着してきたこのタイミングにおいて、そのあり方を改めて検討するべきではないか? そして、今の音楽業界の中で、さらには社会の中でフェスはどう位置づけられるのか? そんな問いが、本書に通底する問題意識である。

 

現代のフェスの約20年にわたる歴史においてたびたび言われているのが「もうフェスは厳しい」という話である。典型的なものとして、このような記事が挙げられる。

数年前より、数が増えすぎて飽和状態だと指摘されてきた夏フェス。実際、地方で開催される夏フェスの中には、チケットの売れ行きが悪く開催直前に中止されるケースも出ている。そんな中でも、4大フェスと呼ばれる「フジロック」「サマーソニック」「ロック・イン・ジャパン」「ライジング・サン」は安泰と見られてきたが、今年は東日本大震災と福島第一原発事故の影響で、厳しい状況に追い込まれているという。(中略)CD不況を尻目に、ゼロ年代に一大ブームを巻き起こした夏フェス。今年は各イベントにとって、存続を懸けた正念場となりそうだ。(『サイゾー』サイゾー/2011年8月号/P68〜69)

しかし、今年で4大フェスがすべて開催10周年を迎え、岐路に立っているのも確か。昨年、フジロックとサマーソニックが、開始以来初めて入場者数が減少となった。今年もフジロックは横ばい(サマーソニックは例年より1日多い、3日間の開催だった)で、洋楽系のフェスを中心に観客数の頭打ち傾向は明らかだ。ロックフェスティバルが今後も夏の国民的なイベントとして残っていくために策はあるか。(『日経エンタテインメント!』日経BP社/2009年11月号/P70)

「今まで盛り上がってきたけどもう厳しいよ、さあどうする?」というような気分を煽るこういった記事は2000年代後半から2010年代初頭にかけて多く見られた印象があるが、実はフェスの歴史が始まったころからすでに存在していた。

こんな具合に、週末はどこかで大きな野外フェスがあるわけだ。音楽ファンのチョップ記者(筆者注:この記事が掲載されているコーナーは「NEWS CHOP!」)としてはうれしい限りだが、この現状について大手レコード会社プロモーターは苦笑まじりにこう言う。「それぞれ素晴らしいフェスで楽しみではあるけど、社内から"ロックフェス・バブルって感じだね。ファンを食い合って共存できないんじゃないの"という声もありますよ」(『週刊プレイボーイ』集英社/2000年6月13日号/P51)

この記事は、前述の記事にも登場するフジロック、ロック・イン・ジャパン、SUMMER SONIC(以下、サマソニ)、RISING SUN ROCK FESTIVAL(以下、ライジングサン)の「4大フェス」が すべて出揃った2000年のものである。

つまり、フェスの歴史というものは「フェスはもう終わり、うまくいかない」という言説の積み重ねの歴史でもあると言える。

創生期から常に「バブル」などと言われ続けてきたフェス。ではその見立て通り、フェスは一過性のバブルで終わったのだろうか?

結論から言うと、バブルははじけなかった。