オレたち恋愛弱者の熱く哀しい涙も、きっといつの日か報われる

作家・東山彰良がコンプレックスを吐露
東山 彰良 プロフィール

本書『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』も例外ではない。芸術とはコンプレックスの昇華である。拙著が芸術と呼ぶに足りるかどうかは分からないが、なにはなくともコンプレックスだけはたっぷり盛り込んだつもりである。この本の主成分は、これまで恋に関して沈黙するしかなかった圧倒的多数派の、そう、とどのつまりは有象無象たちの涙なのだ。

女性の目にはけっして映らない有象無象たちの悲しみを表現するのに、どんな文体がもっとも効果的だろうか? 悩みに悩みぬいた。なんといってもこの本は世のすべての晩稲で不器用な有象無象の、ひいては私自身の等身大の哀歌なのだから。

ふさわしい文体を探し求めて七つの海に乗り出す覚悟だったが、あにはからんや、答えはすぐそばにあった。下手な小細工などいらぬ。愛すべき有象無象たちの物語なのだから、直球勝負でいいじゃないか。

そんなわけで、私は本書のふたりの主人公を「有象くん」と「無象くん」と名付けた。すると、この連作短編にふさわしい文体のほうで私を見出してくれた。ほかの登場人物にもみんな寓意をこめよう、名前を見ただけでその人となりが分かるようにしよう。ダンベル先輩、ビッチちゃん、イケメンくん等々はそうして誕生した。

このような作品が、ユーモア小説以外であるはずがない。

私はユーモア小説を書いた。笑えるかどうかはひとえに私の筆力と、そしてあなたのなかに有象無象くんが眠っているかどうかにかかっている。

読書人の雑誌「本」2017年12月号より