スパコン詐欺事件「異例の捜査」で検察は誰を追い詰めたいのか

政界関係者の関与は?
河野 正一郎 プロフィール

検察の本当の狙い

捜査する側の東京地検特捜部も、そのような影響は検討したうえで事件に着手したと思う。それでも特捜部が強制捜査に及んだ背景に、「この事件を端緒に政治家を巻き込んだ汚職事件に発展するのではないか」という見方がある。

証拠資料のフロッピーを改ざんした事件が明るみに出た2010年以降、東京地検特捜部は政治家を逮捕する事件に着手していない。「最強の捜査機関」の復権をかけて、強制捜査に及んだのではないかというものだ。

だが、関係者の話を総合すると、その見方は早計のようだ。ある検察関係者は私にこう話した。

 

「検察が越年捜査するのは異例のことで、可能性は限りなくゼロに近いでしょう。特捜部は斉藤容疑者を年末に起訴して捜査を終了すると考えるのが自然です」

そもそも、国会議員には不逮捕特権があるため、国会が開かれている間に逮捕するには、国会での議決が必要になる。いま開会中の特別国会は12月9日に閉会する予定で、年明けの通常国会の召集日は2018年1月19日とも目されている。特捜部が国会議員逮捕を視野に入れているとすれば、かなりタイトな日程だ。

ある検察関係者は私に、今後の捜査の行方についてこう漏らした。

「捜査が進んで、仮に山口氏に違法な金が流れていたことがわかったとしても、大臣でもない山口氏には職務権限はないので収賄罪にはならず、問える罪は所得税法違反ぐらい。政治家ならさらに逮捕のハードルが上がる。そうなると、今回の捜査の結果は、世界でも高性能なスパコン開発が頓挫する可能性が高まるだけということになる。今回の事件着手には道理がないんです」

事件が着手された12月5日は、奇しくも山口氏から強姦されたとして、ジャーナリストの伊藤詩織さんが慰謝料を求めた民事訴訟の第1回口頭弁論が開かれた日だった。

これについてある政界関係者は「特捜部の案件だから、官邸の了承を受けたうえで捜査に踏み切っているはず。山口氏が立件されるとは思えないが、事件との関連でいろいろと報道される。最近の山口氏の言動などを快く思わない官邸が、山口氏と関係を断つために事件を利用した、とみることもできるのではないでしょうか」と言い、こう付け加えた。

「仮に、今回の事件に政府が関与した疑いが出てきたとしても、特別国会が閉会すれば政府は追及される機会もないし、クリスマスと正月を過ぎれば、多くの人が事件のことを忘れ去っているでしょう。事件に着手するには最高のタイミングだったのかもしれません」

山口氏に今回の事件について、SNSと携帯電話のメールを通じ、斉藤氏との関係など尋ねたい項目を送った。返信がないため、直接電話すると、山口氏は「いま電話に出られないので、すみません」と言って電話を切った。混乱している様子はうかがえるが、元気そうな声だった。それ以後も携帯電話で接触を試みたが、今回の事件について詳細な取材をすることはできなかった。(回答があり次第、追記したい)

斉藤氏が事業について説明する場に同席していたとして、それで「山口氏の深い関与があった」とみるのも短絡的だろう。この事件にはどんな「背景」があるのか。今後、P社のスパコン開発は誰が担うのか、いや、そもそも開発自体が中止されるのか。誰かの「思惑」や「忖度」で国益が失われる結果になれば、被害者は私たちになる。