スパコン詐欺事件「異例の捜査」で検察は誰を追い詰めたいのか

政界関係者の関与は?
河野 正一郎 プロフィール

研究者たちの悲鳴

Y氏は斉藤容疑者とこれまで3回ほど会ったことがある。斉藤容疑者は山口氏を紹介したあと、「弊社はベンチャーですが、官邸との関係もあるので、信頼していただいて大丈夫です」と言い、隣りにいた山口氏は自著の『総理』をY氏に手渡したという。

Y氏は山口氏のことを知らなかったが、自宅に戻って渡された本を読み、P社を信頼したという。

Y氏に事件の影響を聞くと、途端に早口になった。

「たいへんなことになった。研究に大きな支障が出る。スパコンは納入されるのか。知っている情報があれば教えてくれませんか」

 

Y氏の素性を明らかにできないため、あいまいな表現になることをご了承いただきたいが、話を要約するとP社のスパコンには以下のような特徴がある。

▽計算性能が高い。
▽装置が小型(小さい体積)なので、装置を置く敷地が必要ない。
▽従来のスパコンに比べ、維持費や電気代がケタ違いに安い。
▽AI研究に勝った国が「次の産業革命の主役」と言われているなか、世界各国がいまAI研究に血道を上げている。P社のスパコンは日本が唯一リードする技術で、今後の研究に欠かせないものだった。

Y氏はこうも言った。

「2020年までにP社のスパコンを導入することを検討しており、どう活用するか研究者同士で話し合っていた矢先に事件が発覚した。P社が不正をしていたのなら、それは罰せられないといけない。だが、せめてスパコンが納入された後にしてほしかった……」

法治国家において刑法犯と疑われる人物を野放しにすることが許されるはずはないし、スパコンの納入が済めば、詐欺容疑が持たれているP社に利益が生じることになる。その点で、Y氏の悲鳴はお門違いの指摘にも見える。

一方で、次の世界的な産業革命の主役の座を射止めるか否かは、日本の“国益”をかけたテクノロジー開発競争といえる。今回、特捜部が事件に着手したことで、日本のAI研究スピードは世界各国に遅れをとることになるかもしれない。

刑法犯罪と“国益”を天秤にかけたとき、私はあえて批判されるのを覚悟したうえで、「Y氏の訴えは理解できないわけでもない」と思ってしまった。