「高齢者ホットスポット」の知られざる脅威

それが日常になるから恐ろしい
池田 利道 プロフィール

「定住」という名のアリ地獄

高齢化率が上位30番目までのまちには、もう一つ大きな特徴がある。

誰しも直感的に想像できることとは思うが、公営、公社、UR都市機構などの「公的借家」の割合が平均で7割に達していることだ。リストを見ると、大部分のまちで団地の存在が高齢化の背景にあることがわかる。若い世代の流入がないままに住み続ける人が高齢化し、まち全体の活力が失われていくという、いわゆる「団地問題」が発生しているのである。

高齢化率が高くなる理由としては、大規模な福祉施設や病院などの存在も指摘できる。だが、団地や大規模な施設がないにもかかわらず高齢化が進んでいるまちもある。上位30番目までにはあまり見られないものの、上位100番目まで見てみると、団地とも大型施設とも関係の薄そうなまちが22か所もある。

 

これらのまちは、持ち家比率が23区平均(45%)を大きく上回り、平均で6割を超える。なかには分譲マンション地区もあるが、ほとんどが一戸建て地区だ。一見すると団地とは縁遠い存在のように思えるが、団地と共通した特徴がある。それは「定住率の高さ」だ。

生まれてから一度も引っ越しをしていない人を含め、20年以上引っ越しをしていない人の割合を「定住率」と呼ぶとすれば、高齢化率が高い上位100番目までのまちのうち、団地型の町丁である74か所の平均定住率は、23区平均(22%)を倍以上上回る47%にのぼる。同様に、団地も大型施設もない22か所の町丁の平均も47%。高齢化に悩むまちは、つまり「定住のまち」なのである。

定住して何が悪いのか。悪いどころか「定住のまちづくり」は自治体にとって究極の目標と言われるくらいだ。不動産広告でも「定住のまち」は顧客を引きつける殺し文句とされる。

しかし、定住が価値を持つのは、社会が右肩上がりに成長を続けるという前提があればこそだった。定住者が増えてまちの規模が拡大すれば、そこに若い人たちが次々と移り住んでくる。そこで育った子どもたちは、大人になっても住み続けて子どもを生む。この方程式が成り立つうちは、まちはいつまでも活力を保ち続けることができた。

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しかし、人口が増えず、出生率も低いまま停滞が続く今日、「定住のまち」は年々平均年齢が上昇し、高齢者ばかりが住むまちへとまっしぐらに突き進んでいる。

「人が動かなかったら、まちが高齢化するのは当たり前じゃないか。目新しい発見でも何でもない」と思われる方も多いだろう。それはその通りだ。問題なのは、その「当たり前」の背後にある価値観である。私たちの多くが、定住は「正の価値」、高齢化は「負の価値」と考えている。それを完全否定できる人は多くないはずだ。はて、何かおかしいと思わないだろうか。

人が定住して動かないと、高齢化という負の価値が生まれるのは「当たり前」だという。逆に考えると、高齢化を防ぐには、定住せずに動けばいいわけだ。とすると、定住を正の価値と考えてきた私たちは間違っていたということか? この矛盾にこそ、問題の本質がある。しかし、見事なほどに「定住」と「高齢化」が強く結びついてしまっている現実が、すでにある

東京23区に関する【図2】を見ればそのことがよくわかる。定住率が高い区ほど高齢化率が高いという「当たり前」の結果に陥っていることが一目瞭然だ。