「こんにゃくはコンニャクマンナンという繊維が絡み合った食品なので、そこに乳酸菌を染み込ませられると思いました。
また、こんにゃくは強いアルカリ性ですから、胃酸と中和されることで乳酸菌へのダメージを減らせるでしょう。腸まで生きたまま乳酸菌を届けられる可能性があるわけです。
そこで、まずは植物性乳酸菌ではなく、腸管に付着しやすいとされる市販の動物性乳酸菌をさまざまな直径のこんにゃくに染み込ませて、人工胃液に浸してみました。
すると、こんにゃくなしではすぐに乳酸菌が全滅してしまうのですが、こんにゃくと一緒だと30分ぐらい生き延びたんです(図8)」
しかし食べた物は2~3時間ほど胃の中に滞在するので、30分では物足りない。堀江さんは、「こんにゃくの表面積を大きくして乳酸菌がからみやすくすればよいのではないか」と考えた。
こんにゃくの、表面積。
科学の研究は、人間に思いがけないことを考えさせるものである。しかし、どうすればこんにゃくの表面積が大きくなるのか、想像もつかない。
「製造工程で発泡させて、表面積の大きい『泡入りこんにゃく』をつくってもらいました(図9)。これに乳酸菌をからめて人工胃液に浸したところ、生き残る時間が2時間まで延びたんです(図10)。
浸す前の10%程度まで減りはするのですが、一部でも生き残れば、腸管でまた増殖してくれますからね。全滅しないことが大事なんです」
ここまでは動物性乳酸菌を使う実験だったが、この結果を受けて、次は岡山産の植物性乳酸菌OK1501で同じ実験を実施。
一般的には動物性乳酸菌のほうが胃酸に強いはずなのだが、OK1501はその名のとおり、じつに「OK」な結果を出してみせた。
動物性乳酸菌の2時間後の生存率は約1割だったのに、こちらは2時間後でも6割近くが生存していたのである(図11)。やるじゃないか岡山の乳酸菌!
「ここまでの実験はうまくいって、技術も確立できたので、あとは製品化を待つばかりです。
泡入りこんにゃくは真珠ぐらいの小さいサイズなので、こんにゃく会社としては、タピオカのように飲み物に入れて飲んでもらうことも考えているようですね」
タピオカのような、真珠大の乳酸菌入りこんにゃく。
これは新しい。今回の探検で試食できなかったのが残念だ。いずれ商品化されて私たちの手元に届いたとき、この記事を読んだあなたは、ちょっとした蘊蓄を傾けて周囲の尊敬を得られることだろう。
「このこんにゃく、泡を入れて表面積を広げてるんだぜ」と。いや、もちろん、真に尊敬されるべきはあなたではない。ひとつのテーマを考え抜いた挙げ句に、そんなことを思いついちゃう、研究者である。
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