「それぞれ、49種類の糖のうちどれを使えるか調べました。この図で黄色いのが使える糖、紫色が使えない糖。
ご覧のとおり、石鎚黒茶のプランタラムには使えて、阿波晩茶のプランタラムには使えない糖があることがわかったんです。
1993年頃に採取されたものも調べてみましたが、同じような結果でした。地域独自の乳酸菌が継続的に存在するのです」
差があったのは、使える糖の種類だけではない。
堀江さんによると、一般的に植物性乳酸菌は腸管への付着性が低いそうだ。たとえその乳酸菌に免疫活性化や整腸作用などの機能があったとしても、腸管に付着しなければ飲んでも通り過ぎて出て行ってしまう。
そして、阿波晩茶のプランタラムは腸管に付着する力がかなり弱かった。しかし石鎚黒茶のプランタラムは、腸管にくっつく力が強いことがわかったそうだ。碁石茶との比較研究はまだ実施していないとのことだが、やるじゃないか石鎚黒茶の乳酸菌!
「とりあえず四国の乳酸菌に地域特性があることはわかったので、さらにこの研究を進めていきたいと思います。土地ごとの地産乳酸菌を調べれば、どんな食品に使えるかを考えられるでしょう。
そのためには、乳酸菌の持つさまざまな機能性の有無を見分けるマーカーを提案していきたいですね。抗肥満効果を見たいならこれ、抗アレルギー効果を見たいならこれ、という指標があれば、新しい乳酸菌を見つけた企業などに使ってもらえると思います。
いまはまだ、集めた菌をどうしていいか迷っている企業もありますので。また、学術的な見地からも、日本や世界の各地にどんな乳酸菌があるのか興味深いところです」
たしかに、同じ四国の中でもこんなに違うのだから、日本国内だけでも相当な多様性があるのだろう。乳酸菌なんてどれも同じだと思っていたことを深く反省した。
彼らも生き物なのだから、土地ごとにいろんな進化を遂げるのは当然だ。そこにはまだ、学術研究の広大なフロンティアが残されているのだった。
さて、乳酸菌の地域性に関する研究と同時に、堀江さんはその乳酸菌を「いかにおなかに届けるか」という研究も進めている。
石鎚黒茶のプランタラムは腸管への付着力が強いが、それ以前に胃を無事に通過しないと腸には届かない。
しかし胃液は強い酸性だ。だからこそ細菌の感染を防げるわけだが、善玉菌は腸まで届けたい。だからこそ、胃で溶けずに腸で溶けるカプセルに乳酸菌を入れた商品も開発されている。
しかし堀さん は、それを食品を使ってやろうと考えた。
乳酸菌を腸に届ける役目を果たすのは、なんと「こんにゃく」だ。微生物の探検に来て、まさかこんにゃくの話を聞くことになるとは。意外な展開である。
「たまたま岡山県の味噌屋さんとこんにゃく屋さんとお話をする機会があって、どちらも家庭内消費量が落ちていることもあり、新しい商品開発に積極的だったんです。
発酵食品の味噌には乳酸菌が入っていますし、こんにゃくは低カロリーで整腸作用もあるので、一緒に何かできないかと考え、岡山県の『きらめき岡山創成ファンド』に応募して採択していただきました。県内の中小企業の研究開発や販路開拓を支援するためのファンドです」
味噌に含まれる乳酸菌も、やはり地産微生物である。
そこでこの研究では、まず岡山県産の味噌から乳酸菌を分離し、その有用性を検討した。熟成期間の異なる数種類の味噌から分離して調べたところ、腸管への付着性が高かったのは、熟成期間の短い「若い味噌」から分離した「OK1501」と名付けられたプランタラムだった(図7)。
ちなみに「OK」は「岡山」のことである。なんか、かっこいい。で、それをこんにゃくとどのようにコラボさせるのであろうか。