「調べるのは、お茶自体の機能性と、お茶から分離した乳酸菌の機能性です。
まずお茶自体の機能性ですが、現時点では抗酸化活性をほかのお茶と比較したデータが取れました(図3)。グラフの傾きが大きいほど抗酸化力が高いと思ってください。
いちばん高いのは、発酵していない緑茶。次が2段階発酵の石鎚黒茶と碁石茶、嫌気発酵だけの阿波晩茶はやや低いですね。
好気発酵だけ、つまり乳酸菌を使わないバタバタ茶は、ほとんど抗酸化活性がありません。おそらく、発酵中に抗酸化物質が消えてしまうのだと思います」
前回の「お遍路の科学」では、「酸化ストレス」のことを教わった。酸化ストレス(活性酸素が引き起こすストレス)が高いと、生活習慣病などになりやすい。つまり抗酸化力が高いほど基本的には「健康に良い」といえるわけだ。
「緑茶の抗酸化活性が高いのは、カテキン類を多く含んでいるからだと考えられます。しかし次のグラフ(図4)で示したように、微生物発酵茶はどれもカテキン類が減っていました。
これだけカテキン類が減っているのに、石鎚黒茶と碁石茶の抗酸化活性がそれほど減っていないのが興味深いですね。また、微生物発酵茶は緑茶と比べてカフェイン量も激減しています。
カテキン類はお茶の渋みの素なので、それが少ない微生物発酵茶のほうが緑茶よりお子さんにも飲みやすいのではないでしょうか」
つまり、2段階発酵の石鎚黒茶と碁石茶は、緑茶よりも飲みやすい上に、抗酸化活性もそこそこ高いわけだ。
では、そのお茶から分離した乳酸菌のほうには、どんな特徴があるのだろうか。堀江さんらが、石鎚黒茶、碁石茶、阿波晩茶から分離した乳酸菌の一覧表が図5だ。
一見してちょっと頭がクラクラしたが、「Lactobacillus」が乳酸菌のことだから、名前の後半だけ注目すればよい。重要なのは赤字で表記された「Lactobacillus plantarum」である。これが3種類の微生物発酵茶に共通していた。
「plantarum(プランタラム、ラテン語。英語で言えば「plant」で「植物」のこと)という名前が示すとおり、これは植物性の乳酸菌です。
ザワークラウト、ピクルス、チーズ、ぬか漬け、キムチなど植物を原料とするいろいろな発酵食品から分離されますね。
プロバイオティクス(人体に良い影響を与える微生物。いわゆる善玉菌)としての報告もあります。私たちは、石鎚黒茶と阿波晩茶のプランタラムを4年連続で採取し、その性質を分析しました」
その分析結果を下の図で見てみよう。菌の同定に使う16S rRNA遺伝子配列で調べると、両者は同じ菌だ。
しかしさらに詳しく分析すると、菌が栄養源として使っている糖の種類に違いがあった。