米議会が懸念する、トランプが突然「北への核攻撃」を命令する日

実は、それをチェックする仕組みはない
中岡 望 プロフィール

軍人も大統領には逆らえない

また、公聴会以外でも、11月18日にカナダのハリファックスで開かれた、国際安全保障フォーラムに出席した、米国戦略軍のジョン・ハイテン司令官の発言が注目された。

現役の軍司令官が「トランプ大統領であろうが、彼の後継者の大統領であろうと、核使用命令が違法なら、その命令には従わない」と発言したのである。さらに「もし違法なら、何が起こるか推測し、大統領に対して『大統領閣下、それは違法です』と言うだろう。どんな状況にも対応できる組み合わせの選択肢を持つべきである」と語っている。

APの記事は、この発言に関して「トランプ大統領が核攻撃を決めた場合、ハイテン司令官は(核攻撃以外の)合法的な攻撃の選択肢を提供する」と解説している。ちなみに戦略軍は核兵器を管理する部門である。

ただ歴史を見ると、空軍のハロルド・へリング少佐の解任事件が前例としてある。1973年に空軍基地で訓練中にヘリング少佐が「ミサイルを発射せよという命令が、気が狂った大統領から出されたのではないと、どうしたら分かるのか」と質問したことを理由に除隊させられたケールである。

また大統領は軍の最高司令官であり、自分の命令に反する兵を解任することができる。ホワイトハウス内で、大統領の決定を批判した閣僚や顧問は、即座に解任されるだろう。ハイテン司令官は「大統領の命令が違法だったら従わない」と述べたが、果たして軍の司令官が本当に大統領の決定に背くことができるのだろうか。

 

すべてはトランプ一人にかかっている

また「1973年戦争権限法」によって、大統領は議会の承認なしに48時間、軍を自由に動かすことができる。その時間を過ぎると、大統領は議会に通告し、60日以内に軍事行動の承認を得なければならない。現状の法律を適用するとすれば、大統領が核兵器で北朝鮮を攻撃し、核能力を破壊する決断をしても議会は阻止できないのである。

こうした攻撃は“外科的攻撃(surgical attack)”と呼ばれている。だが、外科的攻撃は、韓国と日本に重大な被害を与える事態をもたらすことは明白である。核攻撃を加えたとしても、北朝鮮の核能力を一気に破壊するのは難しいだろう。

もう一つの戦略的な作戦は金正恩をはじめとする北朝鮮の指導部を排除する作戦である。これは”断頭的攻撃(decapitation attack)”と呼ばれている。これも成功する見通しは小さい。

トランプ大統領の支持率は低迷し、大統領を弾劾すべきだという声も強まっている。国内で行き詰ったトランプ大統領が、起死回生の策として北朝鮮を攻撃する可能性はないわけではない。

米韓合同演習に示されるような北朝鮮に対する圧力が、偶発的な軍事衝突を起こす可能性も懸念される。北朝鮮は激しい口調でトランプ大統領を攻撃しているが、具体的な軍事行動を取っているわけではない。

しかし、北朝鮮軍と米軍あるいは韓国軍の間で偶発的な軍事衝突が起これば、トランプ大統領は北朝鮮攻撃の口実を得ることになる。北朝鮮はトランプ大統領に攻撃の口実を与えないように最大限の配慮を払っているが、計算違いは起こりうる。

現在のアメリカの制度では、トランプ大統領の核攻撃命令をチェックする仕組みはないのである。