米議会が懸念する、トランプが突然「北への核攻撃」を命令する日

実は、それをチェックする仕組みはない
中岡 望 プロフィール

米議会の懸念は北ではなくトランプ

11月14日に上院外交関係委員会で「大統領の核兵器使用権限に関する公聴会」が開かれた。現実的な問題としてアメリカで最も懸念されているのは、北朝鮮がアメリカを攻撃することではなく、トランプ大統領が北朝鮮に対して核の先制攻撃を行うかどうかなのである。

多くの専門家は、北朝鮮がアメリカに戦争を仕掛けると思ってはいない。またトランプ大統領が核を使った攻撃を北朝鮮に加える可能性の方が高いと見ているのである。

議会が大統領の核使用権限について議論するのは41年ぶりのことである。過去において核兵器使用を考えた大統領はいたが、実際に核兵器が使われることはなかった。したがって、核兵器使用は大きな政治的な課題になることはなかった。

どんな法的な根拠で大統領は核兵器が使えるのか、核兵器使用にどんな道徳的な意味があるのかといった問題が真剣に議論されることはなかった。冷戦時代の“核抑止理論”によって核兵器は張子の虎となっていた。

だが、トランプ大統領は選挙運動中に「なぜ使わない核兵器を持っているのか」と、核抑止論を真正面から否定する発言を行っている。トランプ大統領によって、新たに核兵器使用に対する本質的な議論が必要となっているのである。

 

核のボタンの「メカニズム」

アメリカでは核兵器の使用に関してシビリアン・コントロールが成立している。軍が他の武器と同様に勝手に使用することはできない。具体的には、核兵器の使用を命じる権限は大統領にある。

大統領が核ミサイルの発射を命じる場合、大統領のスタッフが常に携帯する“フットボール”と呼ばれるスーツケースを開き、事前に決められた番号を打ち込むことになる。同時に、大統領は国防総省の作戦本部の副本部長と戦略軍司令官と電話会談を開く。この電話会議には大統領顧問なども参加できる。この会議は30秒程度で終わり、これを受けて国防総省の高官が、大統領が常に携帯している“ビスケット”と呼ばれる薄いカードを使って大統領の指令が本物であることを確認する。

大統領の発射命令が確認されると、発射命令とミサイルのロック解除コードが戦略軍に伝達され、核兵器を搭載したミサイルが発射される。大統領が“フットボール”に暗号を打ち込み、ミサイルが発射されるまでにかかる時間は15分以下である。

問題は、この過程で大統領の命令を阻止する方法がないことである。公聴会で問題となったのは、こうした大統領権限のあり方である。極論すれば、トランプ大統領が核ミサイル発射命令を出したら、誰も阻止できない。

「非合理な核攻撃」を止める法律がない

公聴会のボブ・コーカー委員長は、トランプ大統領の攻撃的な発言は世界を第三次世界大戦に導く可能性があると、公然とトランプ大統領を批判したことで知られている人物である。同委員長は、トランプ大統領は大統領の職責にふさわしくなく、場合によっては核兵器を使用するかもしれないと強い懸念を抱いている。

公聴会には3名の証人が招かれた。元戦略軍司令官のロバート・ケーラー退役将軍、デューク大学のピーター・フェーヴァー教授、ブライアン・マッケオン元防衛政策担当国防次官代理である。

証言の中でケーラー証人は繰り返し「軍は盲目的に核攻撃の命令には従わない」と発言している。さらに「軍は合法的な命令に従わなければならないが、違法な命令には従う必要はない」とも証言している。

では、何が法的な規準になるのか。「妥当性」と「必要性」が判断基準になる。具体的に言えば、核攻撃が差し迫った脅威に対する対応として“妥当”かどうかである(妥当性)と、通常兵器で脅威に十分に対応できず、核兵器の使用が不可避かどうかである(必要性)。

委員会の委員からも多くの質問が出された。ベン・カーディン上院議員は「大統領が核戦争を始める権限を制限するチェック・アンド・バランスが存在するのかどうか」について質問し、「一人の人物だけが核兵器を使う権限を持つ制度を見直すべきである」と主張した。

さらに「核兵器使用制度は衝動的で非合理な核攻撃を阻止するものでなければならないが、現行の制度ではそれを保障することはできない」と悲観的なコメントをしている。

またエド・マーキー委員も「一人の人物が核戦争を始める権限を持つ制度」の問題点を指摘している。同委員はテッド・ルイ下院議員と共同で「核兵器による先制攻撃を禁止する法案」を下院に提出している。

同法案には、憲法の規定に基づく議会の「戦争宣言(declaration of war=宣戦布告)」なしで大統領が核兵器を使った先制攻撃を禁止する条文が盛り込まれている。ちなみにアメリカの憲法では「戦争宣言」を行う権限は議会に与えられている(第1章第8条第11項)。

委員から、大統領は北朝鮮に先制攻撃を加える場合、議会の承認を求めるべきかという質問が証人に投げかけられた。それに対してマッケオン証人は「いなかる大統領も国民の直接の代表である議会の承認を得るべきである。北朝鮮との戦争では莫大な人的被害が予想されることから、憲法上、北朝鮮との対立を“戦争”ではないと主張するのは合理的な議論とはいえない」と答えている。

公聴会の証人は核使用に関する大統領権限を制約する必要性を説いたが、委員の中には、大統領権限を制限することは同盟国に“核の傘”に対する不安を引き起こすのではないかとの指摘もあった。