米議会が懸念する、トランプが突然「北への核攻撃」を命令する日

実は、それをチェックする仕組みはない
中岡 望 プロフィール

妥協点は見いだせず

アメリカと北朝鮮は、決して妥協できない目的をそれぞれ持っている。アメリカは北朝鮮を完全に非核化することである。他方、北朝鮮はアメリカを含む各国に“核保有国”として認知させることである。これはアメリカにとって絶対認めることができない。とすれば、和解の道がないまま、北朝鮮が核武装化を進めていくのは避けられないだろう。

当面、トランプ大統領は、経済制裁によって北朝鮮を兵糧攻めにし、核兵器開発を断念させる戦略を取っている。だが、北朝鮮は、アメリカはイラクで行ったような“体制転換”を求めてくることを懸念しており、核兵器保有は“金王朝の国体護持”に関わる死活問題であるとみている。とすれば、経済制裁によって簡単に核開発を断念するとは考えられない。

両国とも解決策を見いだせない状況にある。現状が続き、トランプ大統領と北朝鮮の間での“口撃”がエスカレートし、北朝鮮のミサイル技術が進めば、どこかの時点でトランプ大統領が軍事的な行動を取らないとも限らない。

ジャーナリストのニコラス・クリストフ氏は『ニューヨーク・タイムズ』(11月29日)に「歴史の教訓では、大統領や顧問が戦争を検討していると語る時、彼らは本当にそれを考えているということだ」と書いている。要するにトランプ大統領や顧問が北朝鮮との戦争を語る時、それは単なる言葉では終わらないということである。クリストフ氏はさらに「私が取材した安全保障の専門家は戦争が起こる確率は15%から50%以上と推定している」とも書いている。

またクリストフ氏は、最近、北朝鮮を訪問している。その印象から「アメリカも北朝鮮も過剰に自信を持っている。北朝鮮はアメリカとの核戦争を生き延びることができるだけでなく、勝利を得ると信じている。ワシントンもミサイル先制攻撃によって1日で戦争を終わらせることができると同じ幻想を抱いている」と指摘している。

相手を過大評価したり、あるいは過小評価することが、最悪の事態を招く最大の原因となる。両国の間で外交チャネルがなく、相手の情報を十分に得ることができない状況では、なおさらである。

 

ティラーソン「失脚」の意味

戦争の確率が高まっているとはいえ、現在、差し迫った状況にあるわけではない。ティラーソン国務長官は北朝鮮のミサイル発射実験の後に発表した声明のなかで「まだ外交的選択肢は生きており、開かれている」と過剰な軍事的反応を諫めている。

だが、そうしたティラーソン長官に対して逆風が吹き始めている。今までも大統領と長官の確執が語られてきたが、北朝鮮のミサイル発射後、大手メディアは一斉にティラーソン長官が更迭されるとの観測情報を流した。

情報源は“ホワイトハウス高官”である。トランプ大統領もティラーソン長官も表面的には観測情報を否定しているが、こうした観測情報が流される意味合いは明確である。それはティラーソン長官がホワイトハウス内での権力闘争で敗れたということである。

仮にティラーソン長官が留任したとしても、ホワイトハウス内での影響力が低下することは否めない。今後、ホワイトハウス内から北朝鮮に対するより厳しいコメントが出てくることは想像に難くない。ジャーナリストのウィリアム・ボードマ氏は、北朝鮮脅威論と北朝鮮に対する先制攻撃論が高まるワシントンの状況を“ヒステリア・ブーム”と表現している。

だが、北朝鮮がミサイル発射実験を行った後に国防総省が発表した声明は、マティス長官とは違った見解が示されている。国防総省のロバート・マニング報道官は「北米航空宇宙防衛本部(NORAD)は、北朝鮮のミサイル発射は北米にとって、我が国領土にとって、あるいは我が国の同盟国にとって脅威ではないと判断した」と語っている。

政治家がヒステリックに北朝鮮の脅威を語るのに対して、職業軍人は極めて冷静な判断をしているのが印象的である。