大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」の真相

【スクープリポート】地面師を追う➀

地面師に加担する司法書士

そうして12日、津波たちは実際の持ち主とともに元NTT寮の中に入って確認し、ひと安心した。リフォームする工事業者の手配までし、5億円の代金振り込みをする契約日を27日と決めたのである。津波が打ち明ける。

「5月20日になって、もともと話を持ってきた不動産ブローカーたちが、うちの会社に北田を連れてきました。そこで1週間後の27日に決済したい、という。ずっと取引を急かされてうんざりしていたのですが、それでも一週間後なので了解しました。あとでわかったんですけど、なぜ1週間の猶予があったかといえば、その間、亀野という重要な役割をする詐欺師が海外に行っていて、日本にいなかったからでした。彼が戻って来てから決済しようとなったのでしょう」

 

まさに地面師の広く深いネットワークが垣間見える。亀野裕之は千葉県内で司法書士事務所を運営している司法書士であり、アパ事件では地面師の宮田康徳らとともに、中心的な役割を担った人物でもある。東向島の料亭を経営していた地主になりすました地面師事件でも、宮田とともに今年2月に逮捕されている。

そして亀野の帰りを待って、問題の取引が、北田の要請により、Y銀行の町田支店の部屋を借りておこなわれることになった。繰り返すまでもなく、表向き物件の持ち主から東亜エージェンシーが元NTT寮を買い取り、東亜社が津波に転売するという体裁をとる。それを同時に行う同日取引とし、東亜社には斡旋料が落ちるだけのはずだった。

なぜ立件までに2年半もかかったのか

こうした取引には、物件の所有者や仲介者の取引銀行に応接・会議室を用意してもらい、そこで作業をする。

「A社からB社、B社からC社という二つの取引なので、同じ銀行の支店内で二つの部屋を借り、それぞれの司法書士が立ち会って契約を交わし、代金を支払う手はずになっていて、指定されたところがY銀行の町田支店でした。ところが取引当日になって、東亜・北田側は、『町田支店に持ち主の方が来ない』という。東急線沿線の学芸大駅前の支店に呼んでいるから、うちの社員とこちらの司法書士をそちらに向かわせてほしいというのです。で、町田と学芸大駅前の二手に分かれて作業をしなければならなくなりました」

これもトリックの一つだ。

犯行グループの申し出を整理すると、27日の同日売買で、津波がY銀行町田支店で5億円を支払い、斡旋料を差し引いた分が東亜エージェンシーを通じてプリエに渡り、山林分の代金を合算した20億円が持ち主のところへ支払われるという。

本来、町田支店で下ろした津波の5億円がM銀行の学芸大駅前支店に届き、その場で津波側と東亜エージェンシーを通じて持ち主に売買代金を渡せば取引が完了するはずだ。が、犯行グループはそんなつもりなど毛頭ない。単なる時間稼ぎのため、当日になって持ち主を別の遠くの支店に呼び出して取引を分断させ、目くらまししたに過ぎない。

そして事実、津波の支払った5億円は、まんまと犯行グループの手で、その日のうちに4分割されて北田たちのもとへ振り込まれてしまっていた。4分割された5億円は、東亜エージェンシーを介した1億円を含めて北田に1億3000万円が渡り、犯行グループが仕立てた大阪のペーパーカンパニーに、その日のうちに3億3000万円ほどが振り込まれていた。いわば籠脱け詐欺のようなものだ。

その間、M銀行の学芸大駅支店で待機していた津波側の司法書士や社員たちは呆然として、どうすることもできない。むろん所有権の移転登記などできなかった。

知らせを受けた津波は、すぐさま動いた。午後7時半、東亜エージェンシーの社長を都内で捕まえ、問い詰めた。すると妙な言い訳をした。それが前述した「二重取引」だ。

犯行グループの言い分を整理すると、27日の同日売買で、津波がY銀行町田支店で5億円を支払い、そのうち斡旋料を差し引いた分が東亜エージェンシーを通じてプリエに渡り、山林分の代金を合算した20億円を持ち主のところへ支払う手はずだったという。

しかしもとより彼らが20億円用意するつもりなどハナからなく、津波も騙されたことを確信し、町田警察署に突き出した。北田も一時は観念したのか、間もなく出頭した。

が、すぐに釈放され、事件の本格的な立件までには2年半という月日を費やしている。そこには、捜査にも大きな問題があった。

(敬称略 つづく)